第102話 ~模擬戦と短剣~
ボムおじさんの店舗には中庭がある。広さはバスケットコートの半分くらいあり、簡単な運動ができそうだ。
店舗の扉付近にボムおじさんとフィルがいる。ボムおじさんは大きめの木箱を両手で持ってきており、俺とサーニアの目の前に置く。
「さぁ、ここから好きな武器を選ぶがいい!」
何となく、王様のようなセリフだ。箱の中には多種多様の武器が入っている。
防具類は一切入っていない。ナイフ、ダガー、各種ソード類、アックスやハンマーまである。
「箱の中は練習用の武器しか入っていない。大けがにはならない、安心して戦うといい!」
ボムおじさんは満面の笑みで俺たちに話す。
「自前の武器ではいけないかしら? 私の愛用している武器と似た武器はここにはないわ」
パット見た感じいろいろ入っているが、サーニアの得意とする武器は入っていないようだ。
「なに! この中から選べないだと! 普段どんな武器を使っているんだ?」
サーニアは露わになってる太ももと反対側、スカートに隠れた太もものベルトから、何やら武器っぽいものを取り出す。
それは極薄になった鞭のような剣。ペラペラ剣とでも言おうか。初めて見た武器だ。
「サーニア、それは剣なのか?」
「ユーキはきっと初めて見る武器だと思うわ。これは私の特注品。ウィップソードっていうの」
しなるような剣。そんなに長くはないが、ペラペラで、とても切る事は出来なさそうな剣だ。
「サーニア、流石にそれと同じ練習用の剣はないな! どうする?」
「今回は、練習用の武器を選ぶわ。ユウに傷を付けたくないものね」
サーニアはウィンクを俺に向けてしてくる。確かに深い傷は困る。
サーニアは、しぶしぶナイフを四本持って行き、装備し始める。
確か、初めて会ったときも装備品はナイフだったような気がするな。
「ユーキ殿はどうする?」
「んー、自前で持ってきた短剣なんですが、魔道具で人を切れないらしいんです。試合で使ってみていいですかね?」
俺はちょっとしたつてで手に入れた『切り裂きの短剣』をボムおじさんに見せる。
短剣を手に取ったおじさんは、自分の腕にナイフを突き立ててみるが、傷一つない。
これは、ボムおじさんの肌が異常に固いとか、そんな事ではない。
隣にいたフィルも不思議そうにしていたので、おじさんからナイフを借り同じように自分の腕をちょっとだけ切ってみる。
が、やっぱり傷一つつかない。
「……ユーキ、この短剣は実戦向きではないな。攻撃力ゼロ」
「ユーキ殿は面白い武器を持っているな! これなら問題ない! 模擬戦で使ってもいいぞ!」
ボムおじさんの了承は得た。これで対人戦で使えるかどうか実験ができる。
「準備はいいか!」
俺とサーニアは向きあい、試合開始の合図を待っている。
こうしてみるとサーニアはなかなかの美人だ。こんな人に武具について接客されたら買っちゃうかもな。
すぐ隣にはボムおじさんがいる。フィルは扉の近くで背中を壁にくっつけ、こちらを見てる。
「実戦形式の模擬戦を行う! 魔法は禁止! 気絶か降参した方が負けである! それでは、はじめ!」
試合開始の合図とともに、俺はすぐにサーニアの懐に体制を低くし潜り込む。
警戒していたサーニアは太ももがばっちり出ている方の足で、俺の頬に向け蹴りを出してきた。
思ったより蹴りの速度が遅かったので、目の前でサーニアの蹴りを躱し、右手に持った短剣で空を切った足を斬りつける。
――シャッ!
短剣はそれなりの速度で水平に音を鳴らした。確かに手ごたえはあった、サーニアの太ももには少しだけ痕が付いている。
短剣で斬ったはずの太ももはノーダメージ。無傷だ。それはそれで良い。ナイス太ももだからな。
これは、どんな攻撃しても無傷なのか? 本当に対人で使えないアイテムのようだ。
今さらだが、練習用のナイフの方が攻撃力あるのでは? と思ってしまう。
「あら、ユウの動きについていけなかったわ。思ったより早いのね」
先手を打たれたにも関わらず、サーニアは余裕の表情だ。
「まだ、手加減しているんだぜ? そろそろ本気でやらせてもらおう。早く帰りたいんでな」
俺は再びサーニアの懐付近まで近づき、短剣を片手に突きまくる。
この短剣は見た目よりも軽い。斬っても刺してもノーダメージであれば、斬るよりも刺して、短剣の圧力を相手に伝えた方がまだましだ。
右に手に持った短剣でラッシュする。
「サーニア!これで終わりだ! オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!」
それなりの速さでサーニアに向け、短剣で刺しまくる。
ところがサーニアは全く動かない。まさか、全て受けきるつもりか?
「ユウ、その短剣では勝負にならないわ。 幾ら私に攻撃しても 無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!」
俺の短剣がサーニアをとらえる。左肩、左わき腹、左胸、首下。主にサーニアの左側を中心に短剣で突き刺し、切り刻んだ。
俺は目を伺った。ダメージがない。まったくないのだ。赤く腫れたわけでもなく、傷もない。
しかし、人は無傷だが、それ以外は斬れる。人は無傷だが、それ以外は斬れる。
重要なので、二回言いました。
要は。
サーニアの左半身の服が下にずれ落ちている。
短剣で肌に傷はない。だが、その上にあった服はきれいに斬れてしまった。
片山バインがその攻撃力を増す。二倍、三倍、四倍……。




