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第099話 ~戦闘開始と心残り~


 扉の向こうからは少女四人の声が聞こえてくる。

大騒ぎになっているようだが、しょうがない。

俺は開店の準備を進めることにする。


 本当はレポートの続きを読みたいが、そこはルエルに確認を取ってからだと思った次第だ。

テーブルには朝食で使用した食器やグラスが残っているので、まずそれをカウンターに持っていく。


 窓を開け、店に日の光が入ってくる。柔らかい陽の光は気持ちがいい。

レジの準備はわからないので、商品陳列を見る。


 もう少し押せる商品が欲しい所だ。フィルとイリッシュに頼んで作ってもらうとするか。

確か素材は倉庫に有ったはず。バックとアクセサリー、あと少し護身用の武器があったらいいかな?

女性が持っても可愛い武器が欲しい。おしゃれな武器ってなんだ?

後でフィルに聞いてみよう。


 お客さんが増えたらルエルの紅茶を是非飲んでもらいたいな。試飲でもやってみるか。


 俺は入り口から外に行き、天窓を開ける。昨日は愛にしてもらったが、色々と問題があったしな。

先に天窓を開けておけばいいだろう。


 さっきより行き交う人が増えてきた。そろそろ町が起きる時間だ。

全身鎧の冒険者達が北を目指して歩いて行く。確か北にはダンジョンがあるらしいな。

まぁ、戦闘経験がほぼない俺が行くところではないか……。でも、異世界に来たらダンジョン行ってみたいよね!


 そんな事を考えながら店に戻ると、制服を着た少女四人が立っている。

どうやら俺を待っていたようだ。



 戦闘開始か……。



「みんな、沐浴は終わったのか?」


 全員ジト目で俺を見る。言葉もない。目線が心臓に突き刺さる感じだ。


「ユーキ。他に言うことはないの?」


「今さらだが、フィルの制服は俺とおそろいなんだ。ごめんな、買ったときはまだ男の子だと思ってたからな」


 フィルは俺と同じ黒服っぽい恰好になっている。本人はまんざらでもないようだ。


「違う!」


 愛が俺の目の前まで一瞬で移動してきて、あっという間にぶん投げられた。

勢い余って、俺は空中で一回転し、綺麗に着地する。

我ながら美しい。愛の先制攻撃をきれいに交わすことができた。


「お兄ぃ、さっき何したか覚えてないの? 私達みんな被害者だよ?」


「さっきの事か……。実験の結果だ。申し訳ないと思うが事故だ。本当にすまん!」


 俺の腰は斜め四十五度を示し、謝罪の教本になるくらいのきれいな姿勢になっている。


「ユーキ兄。何の実験ですか?」


「転移の実験。この世界は魔法で転移できるんだろ? 俺もできるかと思って実験したら、みんなの所に飛んでしまった」 


 その途端、愛以外の目が丸くなる。何か変な事言ったのか?


「……ユーキ、転移した? 急に現れたのは転移が原因?」


 フィルは不思議そうな顔で俺に聞いてくる。


「ああ、転移だと思うぞ? この部屋からトイレに転移しようとしたら、皆の所に飛んでしまったがな」


「呆れた。飛翔に続いて転移までできてしまうなんて。ユーキ、あなた規格外ね」


 規格外とは失礼な。俺はいたって普通の男子高校生だ!

そんな事を考えていると、横から愛が俺の腕をつかみ、テーブルの方に連れて行かれる。


「お兄ぃ、それと、これは別! 見たでしょ!」


「見てないと言えば嘘になるが、みんなきれいだったぞ」


 ルエルもイリッシュもフィル顔が赤くなってる。

んもぅ、みんなシャイなんだから! 


「な、な、な何を言ってるの!」


 ここにきて愛の渾身のコークスクリューグーパンが俺の脇腹をえぐる。

メリっと、脇腹にめり込み、俺はその場にうずくまった……。


 あ、愛。至近距離では避けられないよ……。


「ぐふぅ……。あ、愛。痛い……」


 愛は、はぁはぁしながら仁王立ちしている。


「痛くしているのだから当たり前でしょ! そのまま床で反省!」


 他の三人はそのまま俺を見ているが、誰も助けに来てくれない。


「……ユーキ、復活したら仕事」


「ユーキ兄、回復は自分で」


「ユーキ、床掃除の邪魔よ」


 みんなひどい。わざとみんなの前に転移したわけじゃないのに!

とりあえず、こっそりと自分の魔法で自己治癒してみる。


 脇腹を手のひらで押さえて、ヒーリングゥ―。

痛いの痛いの飛んでいけー! 


……少し痛みが引いた気がする。まだ練習不足だな。回復するイメージが弱い証拠だ。


 すくっと、立ち上がりみんなの方を向く。


「今回の件は、本当に悪かった。今後、実験する時を含め留意する。本当にすまん」


 間違った事、失敗したことはしょうがない。しっかりと誤れば許してくれるはず。


「……ユーキ、素直に謝る事ができる所は評価する。今後に期待する」


「ユーキ兄は少しおっちょこちょいですね。しっかりした人がそばにいないとダメですね」


「実験をするときは一人じゃなくて、誰かと一緒にしてね。ユーキは一人で頑張り過ぎよ」


 みんな許してくれた。良かった!

ただ一人、愛を除いて……。


「わ、私は嫌だ! みんなお兄ぃの事好きなのはわかるけど、私だって……」


 愛は涙を少しだけ浮かべ、俺の目を見てくる。

言いたいことはわかるが、こればっかりは……。


「愛。今度一緒にお風呂に入ろう! それでお互い様だ!」


 再び愛から熱い一発を貰いました。ごめんなさい。


「イリッシュちゃん! お店の準備しよう! こんなお兄ぃは知らない!」


 すっかり嫌われた。まったく、いつまでたっても子供なんだから。


「確かに、そろそろ開店準備しないといけなさそうな時間ね」


「じゃぁ、俺は少しさっぱりして着替えてくるから、開店準備お願いしていいか? 天窓は開けてあるから」


「分かったわ。じゃぁ、また後でね。フィル、レジの使い方、教えるわね」


 愛とイシッリュは倉庫に。ルエルとフィルはカウンターに行ってしまった。

さて、俺は一人風呂でも入ろう! 制服もしっかり着ないとね!


 一人風呂場に行く。すっぽんっぽんでタライの中に入り、両手を上げ、頭の上で球体をイメージする。

みんなちょっとずつ元気を分けてくれ!  って、違う違う。

頭の上にお湯の球体を作り、そのまま落下させる。


ザップーーン


 一発で体がさっぱりした。魔法って便利ですね。

さっぱりしたので、さっさと上がろう、皆を待たせているからな。

風呂場で簡単に体を拭き、脱衣所に行く。


 ん? 廊下から話し声が聞こえる。


「イリッシュちゃんはお兄ぃの事、怒ってないの?」


「うーん、怒るというより、恥ずかしいですね。どうせ見られるなら、しっかりと見てほしかったです」


「イ、イリッシュちゃん大胆だね。私も恥ずかしくて恥ずかしくて、投げ飛ばしちゃった」


「アイ姉は、恥ずかしがり屋さんですね。でも、それって愛情の裏返だと思います。もっと、素直になってみてはどうでしょう?」


「は、恥ずかしくてできないよ! 無理無理!」


「でも、ユーキ兄の事好きなんですよね?」


「好きなんだけどね。何か、難しい。でも、一緒にいたい」


「今度、二人で時間作って話したらいいですよ。でも、私もユーキ兄の事好きですよ?」


「まいったね。ルエルさんもきっとフィルも本気だと思うんだよね」


「多分本気ですね。ユーキ兄は優しいし、頼りになるし。この世界は一夫多妻できますよ?」


「私もお兄ぃも日本で暮らしていてね。あ、日本は私の国ね。日本は一夫多妻できないし、兄妹はずっと兄妹だし」


「この世界に残ったらみんな幸せになれますか?」


「……わからない。きっと、お兄ぃが解決してくれるよ」


 できるかいっ! 無茶振りしないで愛さん!

俺はなんでも屋じゃない! 


「そろそろ店に戻ろうか?」


「そうですね。ルエ姉もフィルも待っていると思いますし」


 二人の気配が廊下から消えた。

俺は体を拭き、服を着る。愛達の話はきっと本気なんだろうな。

この世界に残る選択肢も残しつつ、帰る方法を見つける。


 俺と愛が帰ったら、ルエル達はどう思うんだろう?

そんな事を考えたら、心臓がチクッとした。 


 痛い……。

俺の心はどうしたいんだ?

一つ、問題ができてしまった。心残りか……



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