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◇◇
養護学校の体験入学。
いくら養護学校と言えども、こんなに落ち着きのない、放浪癖満載、すぐぐずってロクにおしゃべりもできないような小僧、果たして無事に学校生活を送れるようになるのだろうか、ヨシコの心配は尽きない。
まず、学校外に逃げたりしないのだろうか?
朝の会、体験授業といつにないシステマチックな内容にととは、普段のやんちゃぶりも忘れただ目をまん丸に見開いてことの成り行きを見守っている。そして、コスプレで『なんちゃらマン』のようなノリのよい先生について、色んな遊びに夢中になって取り組んでいる。
授業が終わってから保護者への引き渡し時、ととは迎えに来たヨシコにだっと 走って飛びついてきた。
「どう、たのしかったか?」とケイちゃんに聞かれたととは、やけにはっきり
「うん」
と答えた。
帰りの車の中で、「ねえケイちゃん」ヨシコは独り言のように口に出した。
「養護学校選ぶってさ……マケ、って訳じゃないんだよね」
「なんで?」ケイちゃんは最初からとても学校の様子が気に入っていた。
「居心地よくて、しかも得意なことをどんどん増やしていけるのならば、こういう場所も積極的に選択していいんじゃね?」
「だよね」
先生方の力強く明るい目を思い出し、ヨシコも決心する。
「ちょっと遠いけど、田舎に引っこんでいるよりは逆にいいのかなあ」
居住地校ならば馴染みのクラスメイトとこじんまり過ごすことができる。学校生活も、通常授業は無理だとしてもできる限り高い物を目指せるし、他の子どもたちにも『共生』を実体験として学んでもらえる。
しかしあえて、ナミキ家はより広い世界、そして、より『療育』重視の環境を選択することとなった。
◇◇
ととがいつしか、風呂の蛇口で遊ぶようになった。
この蛇口、引き上げるとシャワーが、押し下げると下から水が出るようになっている。
ある晩、なにげに蛇口を引き上げたとと、思い切り顔面にシャワーを浴びた。
さすがに泣きはしなかったもののだいぶショックだったらしく、次回、ヨシコが一緒に風呂に入った時にまた蛇口で遊ぼうとしたのだが、自らふと気づいて、急いで上にあるシャワーを反対向きにかけなおした。
レバーも、
「こっち? こっち? こここっち?」
と一人で確認しながらゆっくりと上げ下げして、水が上から出ないか、じっとシャワーの穴を観察している。
「ある意味、私より慎重かも……」
風呂掃除の時、たまにひねるのを間違えて水シャワーの洗礼を受けているヨシコは、感心してその様子を見つめていた。