とと五歳・負けじゃないよね、って思う秋 01
とと画・ぼくころんだの(涙目)
◇◇
二学期が始まってからのととは、不思議なくらい自力で登園できるようになっていた。
「ようちえんにいくよ~」
ヨシコの掛け声で、妹といっしょにカバンを背負い、クツもはき、せっせと歩き出す。
幼稚園まで脇目もふらず。こんなこと入園から3年、数えるほどしかなかったのに。
と、喜んでいたヨシコだが、たまに途中でぐずられて担ぎあげたり。
スーパーでの買物もだいぶ、板についてきたような気がしていた。
ある日の買い物、途中で立ち止ってグズグズモードに入りそうだったので、子供用カートを前から押さえたヨシコ、声を少し強くして
「いい? ちゃんと押していかないと、これ、使えないからね」
と説教。すると、ととは下を向いて口をとがらせ
「あい」
と小さな声で返事したではないか。
それからはまっすぐ、カートを押してついてくる。
ととがどこまで分かっているかはヨシコにも疑問だったが、なんだかすごーく当たり前っぽいやり取りで、ヨシコはかえってびっくりしてしまう。
◇◇
物おもう秋。
ととをどこの小学校に入れたいか『保護者からの申し入れ書』を記載せねばならない。
ととの場合の選択肢は大きく分けて4つ。
地域の小学校での普通学級、
地域の小学校での養護学級(現在はないので作ってもらう必要あり)、
少し離れた別小学校での養護学級、
も少し離れた専門の養護学校。
検討しているのは、地元の養護学級か、専門の学校のどちらかだった。
ヨシコはととに聞いてみた。
「小学校だけどさ、来年の春から。どっちに行きたい?」
するととと、人差し指を出して、『どちらにしよーかな』みたいに左右に振りながら
「ここ、こっちこっちこっち、こここっち~??」
と逆に問い返してきた。近頃のトレンドであった。
「禅問答かよ……」
ヨシコの悩みは深い。
◇◇
ことばが出そうで出ない。お菓子の袋を開けて欲しいとき、うなりながら菓子の袋を振り回して、情けない表情でヨシコの顔を見上げるので、
「そーいうときは、あ、け、て、でしょ!」
と強く言うのだが、ととからは
「て!」
と語尾しか出ない。
ヨシコが「あ」と言うと、「あ」と続けられる。
「け」と言うと「け」も続けて言える。
「て」と言うと「て」もはっきり発音できる。
なのに続けて言わせようとすると……
― あ ―「あ」
― け ―「て!」
ん? 気づくと、何となくビミョーに横着されているような。も一度いくよ、とヨシコ。
― あー ―「あー」
― けー ―「てっ!」
……どうも、おちょくられているような気もするヨシコであった。
◇◇
そんな中でも、プチ家出は思い出したように時々実行しているとと。
夜の寝しなに、こっそり外に抜け出して、隣の家を訪問することが増えてきた。
その夜はお隣、鍵がかかっていたらしく、隣家の外にぽつんと立っていたところを身柄確保。
暗い中出歩くようになると困るので、ヨシコはいつになく厳しく叱る。
ととは、一生懸命涙をこらえて立っていたが布団に入ると、こぶしで涙を拭きながら歯をくいしばって泣いていた。
ヨシコがそっと手をのばすと「ふん」といったように向こうをむいてしまう。
ちょっとはナマイキになってきたかな。その背中を見ながらついついヨシコの目元は緩んでいた。