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03

 ◇◇


 大きなプールをなぜか怖がったこの夏、しかし庭プールはコンスタントに大好きな彼。大プールではすぐに逃げ出してしまっていたが、庭のビニルプールにはすぐ飛び込んでしまう。

 多分顔が濡れないかどうかが判断基準だったようだが。


 しかしそんな庭プールに勝るものが意外なところに。


 久々に暑い昼ひなか。ひとりで庭プールにつかってキゲンよく遊んでいたが、家の中でCDをかけたら、音を聞きつけて突然、戻ってきた。

 曲はハチャトリアンの「剣の舞」。何が気に入ったのか、自分でバスタオルを床に敷き、その上に足を投げ出して座り、じっと曲に聴きいっている……すっぽんぽんのままで。

 曲が終わると、「じゃじー(上手)!」と短い拍手。

 もう一回、というので乞われるまま、ヨシコは何度か聴かせてみた。

 同じように真剣に聴き入っている。

 ヨシコはつい欲を出し、次にベートーベンをかけた、が、

「がっっ!!」野生動物のごとき怒りよう。

 クラシックというより、単に「剣の舞」が気に入っただけのようだった。その後CDを止めると、ととは当然のように庭プールに戻っていった。


 ◇◇


 その日は、兄と妹が近所の仲の良い友達キタジマさんのうちに歩いて出かけてしまったので、ととは一人、家に取り残されていた。

 兄と妹の様子を聞こうと電話をいれると、キタジマさんの奥さんが

「いいからいいから、ととくんも連れてお茶でも飲みにおいで」

 と言ってくれたので、ヨシコはありがたく出かけることに。

「タクくんち行くよ」

 そう声をかけると、ととはテレビから目を離し、さっと立ち上がった。

 きょうだいが出かけて行くのを何となく横目で見てはいたが、ここまで反応が早い、というのはやはり気になっていたのだろう、とヨシコは少しだけ胸が痛む。

「クツはいて。あるいて」

 というとそれもすぐ分かったようで、素直にクツを穿いて、手をつながせて歩き出した。


 短い道中、あるきながら、時々ヨシコを見上げては、にこっと笑う。


 その頃同じくらいの年回りの子どもたちから

「ととちゃんがいるからあそびにいきたくない~」

 という声をヨシコはちらほら聞くようになっていた。

 急に大声を出したり、突拍子もない行動に出たり、同じくらいの子どもたちからみたら、「こわい」という気持ちもあるのかも、と思ったり。

 そんな中で、こうしてこだわりなく家族ぐるみで付き合ってくれるキタジマさんみたいな人もいる。

 ほんとうにありがたいことだった。


 キタジマさんちで、子どもらはゲームをしたり庭で走り回ったり。

 ヨシコは久々にキタジマさんとのんびりまったり。

 庭から戻ってきた兄貴のとらが何を思ったのか、しみじみと言った。

「とと、だんだん人間になってきたね~」


 それを言うなら、人間らしく、だろ? 

 ヨシコは心の中でそう突っ込んだ。


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