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02

 こんな感じで、怖いやら楽しいやらの感情をだいぶ表明できるようになってきたとと、暮らしに少しずつ幅が広がってきたような気がしていた。


 しかし、この年の夏は、なぜか今まで大好きなプールに苦手意識が大きかったようで。


 幼稚園にもやや大きなプールがあるので、夏休みのプール開放も始まった。

 親は更衣室となった教室で子どもがプールを愉しんでいるのをまったりと待つのが恒例ではあったが、ヨシコはととに少しでも楽しんでもらうよう、年相応の露出度の少ない水着をわざわざ新調して、彼といっしょにプールに入ることに。

 さて初日のとと。

 シャワーからすでに激泣き、頭から水をかぶるということが許せないらしい。

 そして、プールに抱えて入ると、身をふりほどいて逃げようとする。

 大泣きしては、時々ぴたっと泣きやみ、情けな~い顔でこちらを見上げ、自分の穿いているパンツを指して「ぶわ」と一言。そしてまたおお泣き。

 たまたま、その日ととの水着をうっかり入れ忘れていたため(自分の水着は忘れなかったのに)、そこまで穿いてきた短パンを水着の代わりに穿かせていた。それも案外几帳面な彼には引っかかりどころだったようす。

 結局、10分ほどで「負けたよ……」ヨシコは水からあがる。

 入れ違いに近所のハギノさんが息子を連れてやってきた。

「ととちゃん、水がこわいんだね」

 と同情してくれたが

「おんぶして入れてみた? 何なら私がやってあげようか、水がこわい子にはこれが一番よ」

 と、ととを担ぎあげようとしたのでヨシコは心中むっとしながらも

「ありがとう、今日は帰るから」

 と、つくり笑顔でととをひっぱって立たせ、片付けもそこそこに園を出た。

「……だって今シーズンは今日ようやく初めて一緒に入ったんだし……まだこれからやり方によっては水が好きになっていくかもだし、……ま、私のことだからいずれどぼーんとプールに放りこみそうだけどさ、去年はすんなり入ってたのにさ……ワタシガヤッテアゲヨーカ? って何よ分ったフリしちゃってさ! 明日からの私らを見てろよ!!」

 一人でブツブツつぶやいているヨシコを、ととは不思議な生き物をみるように見上げていた。


 しかし二回目以降から、なぜかすんなりとプールに入るようになったとと。

 ばっちり着替えまでして完全武装のヨシコは急に役目がなくなった。

 そしてその格好のまま、プールの見える幼稚園の廊下から、妹と楽しげにプール内を駆けまわるととをじっと見つめていた。

 何人もの子どもが「おばちゃん、どうしてみずぎなの?」と聞いてくるのも気にせず。


 ようやく水になれたと思ったが、間もなく幼稚園のプールおさめ。

 それでもビート板につかまって、足を浮かせるまでになったそうで。今年の夏は、上出来でした。

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