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03

 ◇◇


 ととが近ごろ覚えた小技。

 片手にスポンジボブの人形(彼に言わせると『すっぶぶ』または『ぼぶ』)とかトーマス模型(同じく呼び名は『ましゅ』)などを持って、作り声で人形の役をやってから、素の声に戻り、1人で会話を楽しんでいる。

 ここまではごく普通の子ども遊びなのだが、その後がなかなか素敵。

 例えば、ととがいつまでもご飯を食べずに人形と会話しているとしよう。そこにヨシコが

「とと、ご飯を早くたべな」

 と言っても、

「ふん」

 と無視されるくらいなのだが、こういう時、ヨシコが

「ねえ、ボブ~」

 と、彼の手にあるお人形さんに語りかけるとあら不思議。ヨシコが

「ボブ、お願いだから、ととにご飯食べて、って言って」

 そう頼むと

「ん!」と作り声で答える元気なボブ。続けて作り声のまま

「とと!」

 そこで素早く地声ににもどり、とと

「あに?」

 するとボブが元気にこう言う。

「ごあん、たべて、ヨ~~~!!」

 すると、素のととがこれも元気に

「うん!」

 そして、ボブを傍らに置いたとと、勢いよくご飯をかっこむ、という仕組みなんですわ。

 これは他人にものを頼むときの、やや高度なワザである(などと偉そうに解説してどうするヨシコ)。

 ととが覚えた小技、というよりそれを上手く利用している母ヨシコ、もしかして天才かも……と自画自賛の嵐に自らを投じる彼女であった。

 しかし数日後。

 走行中、車の窓を開け放したまま客車クララベルを窓敷居の上に走らせていたととに

「あぶない、窓閉めな」

 と注意したらととが無視したのでヨシコは

「クララベル~、ととに窓しめて、って言って」

 と頼んでみた。

 すると可愛い作り声でこう返ってきた。

「おしゅりぺんぺんぺ~ん」

 既に、人形にすら反抗されているヨシコであった。所詮小技。短命なものであった。


 ◇◇


 冬のシーズンになったものの、風邪やインフルエンザには無縁な、元気なナミキ家のとときっずたち。


 しかし、とと兄の様子が近頃、変と言えばヘンだった。


 ミョーにトイレが近い。

 学校でも授業中にトイレに行きたくなって困ったことになる場合も。

 ちょうど小学4年で担任が独身のわかい女の先生という状況もあり、うまく言い出せずにもらす寸前、ということもあり、よけいストレスになる様子。

 それに、水もやたら飲むようになって、食事中もガブガブ飲んでいる。

 おやつはそれなりに食べるが、食事は以前より少なめで体重もここ数ヶ月全く増えない。

 ついに、夜中に2、3回トイレに起きるようになってきた。


 心因性のものを疑ったヨシコではあったが、とりあえず相談ついでに近くの内科医院にかかってみることに。

 まず尿検査と血液検査。どちらもこれといった異常はなし。

 医師の指示で、24時間の水の飲み量と、尿の出た回数、量を家で調べることに。

 つい先日の土~日曜にかけて、さっそく調査開始。とと兄は、

「なんか水飲むのにキンチョーする! トイレもコップにするなんて……」

 とすでに逃げ腰。

 しかし、小心者で数字が大好きな彼、なんだかんだ言いながらもちゃんと記録をとっていた。

 日曜の午後3時、調査終了。ほっとした彼、さっそく喉がカラカラ! と水を200ccばかりいっき飲み。


 その時の結果は……飲んだ量5500cc以上、トイレ回数 22回、量6500cc以上。というわけで、この結果をまた医院に持って行くと、

「やはり、多すぎですね~」

 とのこと。

 飲むからしっこになるのか、出過ぎて脱水状態になるから喉が渇くのか何とも言えないので、内分泌の専門にかかるほうがよい、とのことで総合病院へ紹介状を書いて下さった。


 ヨシコ思うに長男・とら、元々精神的に弱い面もあり、暗示にも弱いので単にストレスが引き金になっているだけだと非常に軽く考えていたのだが。

 注射大嫌いな彼をなだめすかして血液検査やその他、病院での検査を数回。そして……


 意外な結果が出た。目の前のお医者さまがこう言った。

「MRIの結果ですが……下垂体脇に腫瘍らしき影がみられます」


 ヨシコはその写真に釘付けに。もちろん、言葉もなく。


 どうなるナミキ家! どうなるとときっずたち!




<とときっずの日々・前篇終>


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