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お正月。
学校の3年担当先生方からととに年賀状が届いた。手書きの文字で添えてあったメッセージには
「いたずらはしてませんか?」だと。
もう、遅いですよせんせい。
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年末、患っていたケイちゃんのお父さん、つまりととのもう1人のじいちゃんが亡くなった。
正月明けの3日、ナミキ家一同、お葬式に参列となった。
実の息子であるケイちゃんは葬儀の最中は何かと忙しいので、ととを見ているのはヨシコの係と決まる。
葬儀という大切な儀式の間、ととは大丈夫なのだろうか? と心配するヨシコ、だが、ととはあんがい神妙な顔して出棺や斎場での儀式に参列している。お焼香とか収骨など、大人に付き添われてどうにか形通りにやってみせていた。
会場を変えて葬儀。ヨシコは義理の娘ということもあり、葬儀場では最前列に座っていた。ととは知り合いのおばちゃんに手をつないでもらいおとなしく後ろのほうに座っている。
時折、「あ!」とか読経の切れ目に「おわった!」と小声で叫ぶのが聞こえたものの、あとは概ね静かに座っていたようで特に大きな騒ぎもなく式は終了。
あとは、お焼香でお坊さんの傍らを通り過ぎたとき、うれしそうに袈裟の背中を撫でさすろうとしたのと、小声ではあったが「ばいばい」と手を振っていたのが少しひやりとさせられたのだがこれは多分、幼稚園時代によく参加していたお寺の行事や袈裟姿の園長先生を思い出して懐かしくなったのでは、とヨシコは良い方によい方にと解釈する。
どうにか無事に葬儀も済み、ととは兄と妹とともに祓いの席でおいしそうにお子様定食を平らげていた。
「それでも、1人でどこかにさっさと行かなくなっただけでも、だいぶ偉くなったよね~」
と親戚のおばさんから褒められ、ケイちゃんの母さんからも
「たまにうちに遊びに来ても、私がデイサービスから帰ってくるとこの子は大きな声で『おかえり~』って言ってくれるんだよ、偉いね」
と褒められる。ひとそれぞれ取り得あり、ということでヨシコも少し安心するのであった。
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新学期も始まり、少しは教育費に金を使おうとヨシコ、子どもらを本屋に連れて行って一冊ずつ本を選ばせる。
ととについてはヨシコが見つくろう。
『おしゃべりあいうえお はじめてのひらがな』という音の出る教材本。
ととはすっかり夢中で、単語や自分の名前など押したり、音当てのクイズなど楽しんでいる。「やったね!」「せいかい!」とか言われると、「ん゛~~っ」とうれしさのポーズで喜んでいる。
濁音や長音の出し方がまだ馴れてないが、そのうちに覚えるだろう、とヨシコは勝手に期待。
それにここ重要↓
この大きさなら、トイレに詰められることもなさそうだし。
いつまでもつか、電池教材。
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ひらがなの教材にもう夢中! のととであるがどうも、話しことばが今ひとつ。
少しずつ進歩はしているのだが、やはり長いことばは苦手であった。
ごはんの後の「ごちそうさまでした」は覚えていられる最長の部類ではあるが、これがなぜかいつも
「ご、ち、そ、う、さ、ま、で、し、ん、た!」
となる。なぜか一文字、増えているのです。
始めの頃は「ごしんた!」としか言えなかったので、文字で書いてみせれば解るかと思い、ヨシコは壁にかかっている日めくりの上に
「ごちそうさまでした」
と大きく書いてみた。
そうしたら、ととはご飯が終わるたびに日めくりをみて、一文字ずつ拾い読みできるようになってきた。
しかしなぜか、「ごちそうさまでしんた!」と一文字増えてしまっている。
どうも、「し」と「た」の間に「ん」が入ると収まりがよいらしく。
「くつした」も「くつしんた」と言うことがあった。
これが密かにヨシコとケイちゃんとの間で流行。
「昼飯は食ってきましんた」などと活用されるようになっていた。
いつまで続くか、このブーム、という感じでしんた。




