とと八歳・どたばた悲喜劇な冬 01
少し長いですが、ちょっぴり哀しいクリスマスプレゼントの顛末を。
12月25日の朝、枕元にサンタさんからのプレゼントを見つけてウキウキの子どもたち。
そしてクリスマス明けの26日、夜8時半のこと。
ヨシコは必死で年賀状の宛名書きをしていた。子どもらはまったりと風呂前の遊び、ケイちゃんは仕事からまだ帰らず、じいちゃんばあちゃんは自室で時代物のドラマに釘付け、という状態。
誰も、ととがトイレに入ったのに気づいてなかった。
じゃ~~~
水を流す音がして、もう一回
じゃ~~~
そしてもう一回
じゃ~~
途方にくれたような顔で、ととがヨシコの所まで戻ってきた、そして「かしゃん」と腕を引っぱる。
ヨシコがついて行くと、なななんと! トイレが!! あふれているでは!!!
それからが大騒ぎ。
以前のトイレ詰まり騒ぎで活躍した『かっぽんかっぽん』を使う。しかし、何度やっても、何十回、何百回やってもまるで水が引く様子がない。
そのうちに、じいちゃんが太くて長い針金を持ってきた。これで奥に詰まっているものを探ろうという作戦。
しかし、結局便器に傷をつけたくらいで「よく分からん」、とじいちゃん針金を放り投げてまた部屋に戻ってしまった。
おおい、じいさーーーーん、戻らんでくれーーーーー、と叫ぶが無理。
少し柔らかいものが良いかもしれない、とヨシコは次に灯油用のポンプを持ってきてジャバラの方を奥に差し込んでみるが穴が複雑に曲がりくねっているため、目標物まで達することなく、結局油が浮いてよけい収拾がつかなくなる。
このまま水が流れないことには、車椅子生活をしているばあちゃんが困る。とりあえずポータブルトイレを倉庫から出してきてばあちゃんの部屋にセット。
その間にも、ヨシコは何度も水を汲み替えて更にかっぽん作業を続ける。
ととをこっぴどく叱って泣き寝入りに追い込み、他の子どもも見物に飽きて寝入ってしまった頃ケイちゃんが仕事から帰宅。
事の重大さに気づいたケイちゃん、食事もそっちのけで手伝い、ついに夜中の12時近く。
しかし、結局わずかにも水は流れない。
ようやく、業者に頼もうということに決まる。
翌日。
まずどこに電話すべきか迷い、ヨシコは自治体の広報誌に載っていた『休日水道当番店』に電話しようと思ったが、とりあえず問合せ先の上水道課に。
土曜だというのに人がいる。しかも
「こちらは漏水専門なんですが、下水の業者も分かりますので、対応してくれそうな所を調べてお知らせします」
おお! 地獄に仏とはこのことよ、とヨシコは電話の前に正座して待つ。そして数分後。
近くの業者2件が本日OKです、と。
そのうち1軒がナミキ家の浄化槽の点検会社だったので早速電話。
こちらも30分ほどしたら折り返し電話があり、すぐ伺います、とのこと。ヨシコ、気づいてあわててトイレを掃除。
やって来た業者の方は2名。
まずは聴き取り。何を流したと思われるか、と聞かれたのでヨシコ考え、小僧の常からの愛好物――大量のトイレットペーパーかタオルが一番可能性が高いかも、と答える。
業者さん、まず第一に『かっぽんかっぽん』を使い、詰まり取り。
さすがプロは手の動かし方が違う。ぎゅっと押しつけ、力を込めてしかし小刻みに素早く動かして一気に引き上げる。これでたいがいの詰まりはとれる、と……しかし失敗。
「……手ごわいな」つぶやく業者さん。
それでもヨシコたちがやった時と比べると、全く流れなかった水が少しだけ減ってきていた。さすがプロ、とヨシコは舌をまく。
次に発泡する薬剤を使って一気に流す作戦。しかしこれも失敗。
屋外の排水口のところにいたもう1人は、トイレから流れる水の量をチェック。
第3の手段は、排水側から圧のかかった水を流してみる。しかしこれもだめ。
この頃には、中に詰まったのは多分オモチャとか固い(水に溶けない)ものではないか、と業者さんからの指摘。
ケイちゃんが、はっと気づいた。
「……もしかしたら、クリスマスプレゼントのミニカーかも……」
そう、今年のクリスマスは少し少年ぽく、ミニカーとミニリモコンのセットをもらったとと。
見た瞬間からもう心はミニカーのとりこ。操作もすぐに覚え、クリスマス当日は朝から夢中で遊んでいた。
それがどうしてトイレの穴に?
しかし、居間などをざっと探してみたが、確かにミニカーが見当らない。
「最後の手段ですが、便器を外します」
と、業者さん。
一応、便器外しには12600円かかりますが、よろしいですか、とのこと。
それでも、さすがにクリスマスのプレゼントかも、というところが業者さんの涙腺に触れたのか?? その他の作業代はいただきません、と。
そりゃ、もちろんお願いしますです、とケイちゃんとヨシコは二つ返事。
便器が取り外され、ついに中から出てきました……想像通り、ミニカーとリモコン。ご丁寧にセットで。
またそれが便器の穴にジャストフィットなサイズと形であった。
ケイちゃんは沈痛な面持ちでととを連れて来て、出てきたものを見せてしみじみ説教。
さすがに、じっと立ち尽くすとと。そして、わぁ~んと泣いてみた。すぐ、泣き止んだが。
トイレが直ったあまりのうれしさに、ヨシコは帰っていく業者さんにお茶代として千円渡す。
非常に恐縮して1度返してよこしたが、
「また、近いうちにお願いすることもあるかも知れませんので今回は……」
と言うことで受け取ってもらう。
あんな汚れ仕事を(表面上でも)嫌な顔ひとつせず、プロに徹して作業して下さったのですから、とヨシコはもう涙目。
一流メーカーのものとは言え、値段の安さにつられて一番小さくて安いミニカーを選んだばかりに、何と高くついてしまったことか。
他のサイズだったら、まず、穴に詰まる事はなかったろうに。
水に浸かったミニカーはどうなったかというと、出てきてすぐ、ケイちゃんに踏み潰されました。
「だって、未練が残るといかんから」
そういうケイちゃんの目はずっと未練がましく壊れたミニカーに注がれていたのだが。
それにしても、あんなに気に入った様子のオモチャをどうしてトイレに入れたのか、その心理がどうしても解りかねるヨシコであった。
水の中を走らせたかったのか、それとも他のきょうだいがあまりにも
「貸して」というので隠そうとしたのか、手が滑ったのか……???
ことばで説明できないというのが本当にもどかしいだろうに。
それからしばらくナミキ家では『リモコンカー』は禁句となった。




