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とと五歳・こわい、うれしい、じゃじーな夏 01

 とと画・おや、おたくも二足歩行人でしたか

挿絵(By みてみん)

 ◇◇


 夏休みに入ろうとする一泊二日で、とと、幼稚園のおとまり保育。

 近所のお寺にクラスメイトといっしょに泊まっている。お寺の経営する幼稚園なので、毎年恒例の行事である。

 ケイちゃんがぽつりとつぶやいた。

「なんか、しずかだな~」

 横顔がさびしそう。

「今、何やってるかなー」

「寝てるに決まってるしょ、」ヨシコは時計を見る。すでに9時過ぎだった。

 流しそうめんやら、宝捜しやら、花火やらナイトウォークやら目一杯遊んで、子どもらはもう寝ついているはずだ。


 とと一人いないだけで時間の経つのがずいぶん遅く感じる。昨年は長男が同じお寺でお泊まり保育をした。その時にも時の経つのがもどかしかった。その時以上かもしれない、とヨシコはため息をつく。


 電話がいっしゅん、ちかりと明るくなり、夫婦はぎょっとしたように腰をうかせる。別室のばあちゃんが子機を使い始めたようだった。

「お寺からかと思った……」苦笑まじりにヨシコ。たまに調子が悪くなって自宅に電話連絡がくる子もいる。それでも、意外なほど「家に帰りたい」と泣き騒ぐ子はいないのだと言う。


 ととも同じように、今ごろはぐっすり眠っているのだろう、そう信じつつもヨシコはいつまでもまんじりともせずに電話の前に座っていた。



 お泊り保育は無事終了。

 しかし、帰ってきてから夏休みの数日、ととは少し荒れていた。

 すでにオムツは取れていたにも関わらずおもらしを何度かしてしまったり、夜は暗くなると

「こわ~い」

 と泣いたり。

 とにかく、ヨシコにはよく理由の分らないつまらないことですぐ泣く。

 お風呂では足の小指の皮が少しむけていたせいかひどくいやがり

「いた!いた!」

 と叫んで大泣き。

 数日後、天気がからっと晴れたある日、ヨシコは庭にビニルプールを用意して何日かぶりにととを入らせてみた。

 すっかりキゲンがなおっている様子。出てからも、いつものペースで遊び出した。

 気がついた頃にはおもらしもなくなっていた。ヨシコはほっと一息。

 しかし、気づいた時には細かいイタズラも復活していた。例えば……

 ととが出た後のプールには、なぜか靴が何足かぷかぷか浮いておりましたとさ。


 ◇◇


 夏祭りの日。

 花火が一日中、鳴っている。

 雨だというのに、近所の神社では大祭り。三年にいっぺんの夜打ち花火もある。

 夕方から本降り。それでも諸事情からだろうが、花火は強行された。

 大きな音が嫌いなととは、もちろん打ち上げ花火なぞ大の苦手。

 朝6時の一発目に飛び起き、半泣きになりながらも、母の袖をひっばって何ごとか訴えている。

 3連発の花火が終わると

「ぉあった!」

 と叫び、耳を押さえて寝てしまった。

 日中の花火も、ビクッと飛び上がり耳を押さえる彼、持ってるアイスは放り出すわ、茶碗はひっくり返して飯はこぼすわ、そのたびにえらい騒ぎ。

 それでも少しは進歩したなあ、とヨシコが少しだけ感心したのが、花火の度にいちいち苦情を訴えるところだろうか。しかしヨシコは袖にすがりつく息子に冷徹な一言。

「でも私に言ったって花火は止まらんぞ」


 夏は花火がお決まりということもあって、その晩は地元のたいまつあげの祭り。

 高さ6メートル以上はあろうかというたいまつ3本が地元小学校のグランドに立てかけられていて、それを周りから赤松の根を細かく束ねて火をつけたものをみんなで振り回して投げあげ、火をつける。

 そのうちにたいまつに火がつくにつれ、中に仕込まれた子どもよう花火に次々と火が引火、ヒューヒューパチパチうるさいこと。元々遠くから怖々眺めていたととはずっと逃げ腰。

 その後、打ち上げも少し。あまりのいやがりように、ヨシコは会場に兄と妹とを残し、ととだけ連れてしかたなく近くに停めてあった車まで戻った。

 しばらく耳を押さえてうーうーと苦情を述べていたととが、気づくとおとなしくなっている。

 ヨシコがふり向いてみると、なんと彼は耳を押さえたまま寝てました……


 ◇◇


 怖いものは花火だけではなかったようで。

 とと、夕方ひとりでテレビを見ていたときのこと。

 大好きなN○K教育の番組で、タレントの可愛い系女子が歌にあわせて顔を動かす体操のコーナーがある。

 いつもならふつうにみているととであるが、なぜか、タレントさんが片目ずつウィンクを始めたとたん、

「うわ~~~っっっ」

 とものすごい叫びをあげて(立つのも忘れ)高バイで大急ぎで逃げ出してきた。

 急いで抱き上げたヨシコがどうたの? と聞いても心臓バクバクで何も答えず。凍りついたように画面をみつめ続けている。

 それでも、少しは怖いものがなければこの世は生き残れないのかもしれないが。

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