03
◇◇
とと兄、風呂の中でぼぉーっとしている。
どうしたの? とヨシコが聞くと、何でも
「心の中で黒い自分と白い自分とが闘っている」とのこと。
彼の心の中で繰り広げられている会話とは
「まずさ、自分が
『あ~あ、学校イヤだな~』って思ってるとさ、黒い自分が
『そんなの、仮病つかってズル休みしちゃえばぁ?』
っていうじゃん……」
うんうん、そこで白が登場するんだね、で、何て言うんだねお前の天使は? とヨシコ。
「白い自分が
『そうそう、いっそのこと休んじゃおうか』って」
それって全然闘ってないんですけど……とヨシコ。しかしとらは意に介さず続ける。
「それからさ宿題がイヤだな~って思うとさ、黒い自分が
『こんな馬鹿らしい宿題出したのは一体どこのどいつだ!!』
って言ってさ、白い自分が
『めんどくさいよね~』
って言うんだよ」
彼の心の中で天使と悪魔はまるっきりの協調路線のようで。オマエには葛藤というものがないのか?? とヨシコは思う。
しかもヤツの心の中には更に、総理大臣という存在まで居ることが判明。
「でさ、心の中の総理大臣がそれを聞いて
『決定! 明日は休みましょう』
って言うんだよ」
だと。
その割に、小学校も4年になってから、一度も総理のいうことなぞ聞いたことなく、何とかグズグズ言いながらも学校に通っている。
そこがまたこの少年の面白いところでもあるが。
一度くらい、休んでもいいんだけどね~、とヨシコは思うのであった。
ととはそんな兄貴の葛藤なぞどこ吹く風。
先日、年子の兄よりひと足早い誕生日を迎え、また同い年に。
彼は彼なりに心の天使と悪魔が闘っているのだろうが。いや、案外コイツの中の『二人』も仲良しさんなのかも……とヨシコはずっと疑っていた。
◇◇
学校と家庭とをつなぐ連絡帳。というものがととの学校では盛ん。
始めは、まるで幼稚園のようだなあと思いながらもちょこちょこと連絡を書いていたのだが、これが結構面白い、ということに近頃ヨシコは気づいた。
先生もお忙しい中、実にマメに色んな連絡や学校での子どもの様子を知らせてくれ、また適切なアドバイスもいただいたり、ありがたい限り。
ヨシコもつい、つまらんことまで報告するのだがそれもしっかり目を通してコメントを返して下さる。
先日は、他クラスの男の子と色々関わって遊んでいる様子が書かれていたのだが
「れお君と、おいかけっこやかぶりつきっこをして……」
とあった。
はて、れお君と言う子は判る、しかし、このかぶりつきっことは?
ヨシコ、妄想をたくましくしてみる……
まず、一人が柱の影に隠れて相手を待ち伏せ、相手が通りかかったところに
「ぐはぁっっ」
と襲いかかるのか?
でもそれじゃ『待ち伏せ襲いかかりっこ』かな。それとも
相手のわき腹とか太ももとかを喰い切ろうとお互いに相手の周り油断なくぐるぐる回るとか……それじゃあ『食いつきっこ』か。
色々と不思議な光景を妄想してヨシコは一人でクスクス笑うこわいオバサンになっていた。
連絡帳には他の遊びも紹介されていた。ある時は段ボールの紙1枚を敷いて数人で順番に乗って遊んでいました、とか台車に1人が乗って、あとの子が押して交代して遊んでました、とか。
とにかく、子どもって遊びの天才だなあ、とつくづくヨシコは感心する。
仲間作りが難しいのでは、と心配していた特別支援学校ではあるがそれなりに気の合う仲間たちとわいわい楽しく遊んでいるようで、安心したのもあり。
まあ、怪我のないように。かぶりつきっこ。




