とと八歳・コナマイキ小坊主炸裂の秋 01
◇◇
夏休みも無事に明けて。
坊主頭にしてから、何となく成長を感じる、というか聞かん気小僧に拍車がかかった、といったとと。
まず一番変わったのが、返事。
「とと」とヨシコが呼ぶと今までは「あい」とお返事していたのがこの頃では
「とと」
「あに(何)?」
となってしまった。
しかも、「に」がやや尻上がり。
ヨタモンが喧嘩を売られた時と同じイントネーションでナマイキさ倍増となる。
◇◇
ナマイキとはいえ、可愛いわが子。家族参観週間、朝の会から学校の様子が見られるということで、ヨシコとケイちゃんは珍しく夫婦揃ってととの様子を見学に。
教室に向かう途中、学年主任の先生があわてて走ってきた。
「ちょうどよかった! おうちに連絡しようと思ったんですが今日ここにいらっしゃると聞いて。あの、実は……」
スクールバスの中で、脇に座っていた中学生から顔と手をめっちゃ、かじられたとか。
学校に到着してすぐ、保健室で消毒をしていただいたとのこと。
「本当にすみません。一応相手のご家庭にも連絡させていただきます」
とのことだが、大事には至らなかったようなのでとりあえず了解しました、と二人は教室に向かった。
ととはどんなに凹んでいるだろうか、おそるおそる教室をのぞいてみると……
ちょうど朝の会の真っ最中。ととは、なんと本日の当番で前の司会席に。
遠目からはよくわからなかったが、よく見ると確かに、顔中に赤いひっかき痕が。
それでも機嫌よく、ニコニコしている。
中にお入りください、との先生の声にそっと中に入る父と母。
その姿を見かけたとたん、とと、ふたりを指差して
「あっ! ぱぱだ! あった! あ~っっ」
と大興奮。顔が真っ赤になったと思ったら、なんと、感極まって泣いているでは。
一体、何年ぶりかと思われるような感動の再会シーン。
それでも司会席からは離れず、片腕で涙をぬぐいながら司会を続け、時々動きをぴたりと止めてニッコリと数秒間の営業スマイルしている姿に、ナミキ夫妻は涙……いや笑いを抑えることができなかったのでした……
それからは、落ちついて「国算」の授業を受けていたとと。ヨシコとケイちゃんはととの他にも何人かの顔見知りのクラスを回ってそれぞれの様子を見学していた。
ケイちゃんはなぜか、やたらと他所の子に出あうごとにハグされている。
何? いつの間に知り合ったの? とヨシコが聞くとケイちゃんは首をかしげながら
「犬と他所の子どもには人気なんだよな、なぜか……」
と不思議がっていた。
◇◇
いつものようにスクールバスに乗るため、カバンを持って家を出たとと。
でも今夜は帰ってこない。
というのも、3年生から一泊二日の『宿泊学習・学校にとまろう!』という行事が始まるからなのであった。
10月に入ってからほとんど毎日、宿泊のための心構えをみんなで学習してきたようだが、家でも
・おふろ・ねる・せんめん・ごはん(よる)・ごはん(あさ)
・きがえ・きがえ(よび)・薬(必要な人)
とそれぞれラベルのついたパッケージにまとめ、カバンに詰めて支度をしてください、とプリントにあったので、その指示に従って、ヨシコも洗濯ネットに布で札を縫いつけ、学校で用意されたタグをファスナーの先にくっつけ、中身をそろえていた。
ちなみに分類袋は洗濯ネットでなくてもよいが、扱いが一番楽なのだとか。
学校でも、毎日の学習の中で宿泊の内容について確認したり、荷物を自分であらためさせたり、おやつの買物に行ったりと、着々と気分盛り上げの毎日だったが。
ヨシコはついつい心配に。ちゃんと夜眠れるんだろうか?
近頃なぜか夜中に起き出して「くらい」と言いながらしみじみ泣くことが続いたし。
いよいよととの宿泊体験当日。
たまたま夕方5時からバレーボールのお試し練習に行ってきた妹・ぴか。
普段あまり運動しないところ、2時間も張り切ってしまったので機嫌悪く怒ったり泣いたりしながらもようやく風呂に入ったのだが。
お風呂の中でしーん、としていた彼女、ぽつりと漏らした一言が
「ととちゃんがいないと、さびしい」と。
兄は兄で「ととがいなくて、どう?」と聞いたら「静か過ぎ」とひと言。
「う~~っっ」とか「ぴーろ」とか「い~ちちち」などと奇声を発する小僧が1人いないだけで、こんなにも静かだとは。
おじいちゃんも時々「……今頃どうしてるかな」と追憶モードだし。
もう、とと無しの生活は考えられませんわ。つうくらい、なんとなく空しいナミキ家の一夜が過ぎて……翌日の午後。
いつものようにとと、ご帰宅。
「あっぱ~(ただいま~)」と家に飛び込んできてすぐ、ビデオをセット。
誰に何を聞かれようが、ひたすらテレビ画面に吸いついている。
ヨシコはカバンの中身を片付けさせようとするが、全然言うこと聞かないのでこちらを向かせるために脇をつついたら、ものすごく怒ってだらーんと寝転んでしまう、でも目はテレビに釘付け。
ヨシコはケータイを出して上段に構える。
「そんな格好でいつまでも寝転んでたら、写真に撮って学校の先生に送るよ」
そう脅したたところで、ととはようやくしぶしぶ立ち上がり、カバンを片付け始めた。
毎日言うこと聞かないし、いたずらばかりしてるし、困らせ小僧のととではあるが、帰ってきた晩の夕食は、なぜかいつもより何となく賑やかでほんわか暖かいような気がした一家でした。




