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03 ~ととスペシャル・いもうとよお前もか 後篇~

 月曜は無事に学校に行って来られた娘。


 さて火曜日。やはり朝になって

「おかあさんと、はなれたくないの」

 とびすびす泣き出した。


 まず、集団登校が嫌だというので、先に出かけてしまった兄を横目でみながら、時間をかけてお支度。

 そして集団が見えなくなってから、ヨシコと手をつなぎ、ダラダラと出発。

 それでも時間は気になるらしく「おくれないよね」としきりに言う。


 学校に着いたはいいが、さて、ヨシコの手を放そうとしない。

 仕方ないのでヨシコはぴかと手をつないだまま、校長、教頭、養護の先生、担任の先生にと順に「おはようございます」と挨拶をして、そのまま教室まで行く。

 担任のスズキ先生に

「すみません、教室の中まで付いていっていいんでしょうか」

 とおそるおそる聞くと、先生はにっこりとして

「お母さん、ありがとうございます!」と。


 始めは、ジャマにならないように廊下にいたのだが娘に目で訴えられ、仕方なく教室の後ろに座る。

 先生が椅子を用意して下さった。

 ぴか、しばしば母の方を見るので、周りも気が散るだろう、とヨシコは今度は仕方なく彼女の横に座る。

 時々こちらを見ては「もうかえりたい」と小声で訴える娘。

「うんうん(帰りたいのは私です)」

 とうなずきながらだましだまし席に座らせている母。


 どうやら少しは落ち着いて授業に集中し始めたので、先生に頼んであわてて帰る。

 時間はすでに正午。

 なんだかヨシコはすっかり疲れ果て(考えてみたら朝食まだだった)、先生に頼まれていたお迎えの時間ギリギリまで熟睡。


 はっ、寝過ぎた! と焦って家を飛び出したヨシコは下校途中の娘と会う、学校に迎えに行かなくてどんなにぐずっているだろう……との心配をよそに、彼女はメチャクチャ元気。

 それでも家に帰ってから

「どうしてとちゅうでかえったの 」とびすびす。

 ととのお迎えもあったりでイライラしていたのでヨシコは少し感情的に叱ってしまう。


 その後、約束していたお友だちの家に遊びにいったものの、結局、間もなくその家から電話で、飼っている小犬に吠えられ、テンションが下がってしまい、家に帰りたいと訴えていると。

 しゅんとしている娘を連れ帰る。



 それからしばらくの間、ヨシコの『闇の授業参観』は続いた。

 初日だけは、やたらに「どうしてここにいっしょにいるの?」とクラスの子らに質問を受けていたヨシコだったが、翌日にはまるで違和感なく「あのさ~」と話しかけたりギャグをかまして来たり「えほん読んで~」と子どもらに絡まれるように。

 大人なのに授業も一緒に受けて、昼前にこっそりスキをみて洗濯物を干しに帰り、また学校に戻りと2、3往復。

 ヨシコはなんだか教育界に乗り込んだ産業スパイの心境であった。

 慣れてくるとヨシコは保健室で待機、娘は教室にて授業というパターンに変更してみる。

 時々腹痛を訴えて保健室に来る娘が母をみて「ああ、いたのか~」と安心して帰る、という感じ。


 しかしついに、この日々にも終わりが。

 それは6月上旬のある日。

 近所で急な御不幸があり、ヨシコはそのお宅での自宅受付を任命された。田舎のつき合いゆえどうしても断れない。ケイちゃんもその年、組長だったので大忙し。

 そんなドタバタの中、ヨシコはぴかを呼んで言い聞かせた。

「悪い、どーーーーーーーーしても学校にはついて行けないから今日だけガマンして」

 ぴかは「うんわかった」とだけ応えてそのまま集団登校で学校へ。


 先生からも特に連絡がこないまま午後の下校時間に。

 ぴかは、一人で帰ってきた。


 通りがかりに近所の家に立つ母の喪服姿を見かけ立ち止まる。

 ヨシコが手を振ってやったら嬉しそうに大きく振り返し、小走りでいったん自宅まで帰り、少ししたらカバンを下ろしてそこまで走ってきた。

 しばらくヨシコと一緒に受付に座っていたが、そのうちに飽きたのか一人で家に帰っていった。


 それがあってから、急に何も言わずに学校に行くようになった。


 何だったのだろう? 葬式効果? しかしソウシキコウカって何?

 ヨシコは今でも時々思い出しては首をかしげている。


(ととスペシャル・いもうとよお前もか の段終わり でもまだ続く)

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