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とと八歳・いもうとも何かと気欝な春 01

 ◇◇


 子どもらをこっそり置いて新学期からの必要品を買いに、と思っていたところ、ととに嗅ぎつかれ

「ぁく(行く)!!」

 と元気に立ち上がってついてきたので、ヨシコは仕方なくととだけ連れていくことに。

 まずは新学期から使う上靴を買いに量販店に行く。

 広い駐車場から店内までのアプローチ、ととは、はしゃぎながらも殊勝に手をつながせている。

 ぴょんぴょん飛びはねているのは、どうやらスキップらしい。

 店内ではだいぶ大人しくついていたのだが、3足目の上靴選らびに手間取るうち、自分の分を持って隣の棚に行ってしまう。

「まま?」とか殊勝に呼んでいる声がしばらくしたと思ったが、気づいたらもう姿がない。

 あわてて手にした商品を放り出し、ヨシコはととを捜す。

 出口近くまで行き、トイレやガチャポン近辺も捜すがいない。

 もしや、と思ってまた上靴のコーナーまで戻る途中、少し離れた通路でこちらを振り向きながら

「あれ」と少し照れたように立ち止った。

 それでもととは、一応元の所に戻ろうとしていたように見えたので、ヨシコはちょっとだけほめてみる。

 その後はレジも無事通過し、次に寄ったスーパーでも時折おかしなスキップをはさみながらも、ちゃんとついてこられたとと。

 帰りの車中で「ちゃんとついて来られて、えらかったね 」と褒めると「ん」とお返事。


 信号待ちで、はるか向こうに富士山の白い頭がちょっと見えていた。今まで気づかなかった場所なので、ととに、果たして富士山というものが分かるだろうか疑問ではあったが、

「とと! ほら! 富士山がみえるよ、ふじさん!」

 と教えると、びっくりしたように指差す方をキョロキョロしていたが

「じさん! じさん! あ、じさん!おーーーーい、ぅじさ~~ん!!」

 と一生懸命手を振っていた。分かったようです。

 隣を走行していた車のオジサンに手を振ってたんじゃないよな……ヨシコは後から少しだけ心配になった。


 ◇◇


 ばあちゃんがスタッフとして週二回お世話になっているNPOの事務所。

 ヨシコが迎えに行く時、たまについてくるとと。

 おばあちゃんに早く再会したいのではなく、ここににある、鳩時計の大ファンでして。

 事務所につく時間がいつもだいたい5時なので、少し待つと可愛らしいハトぽっぽが出てきて鳴いてくれる。それをととは、いつもうっとりと眺めているのであった。

 だから少しヨシコが早く着きすぎた時などはもうたいへん。

 ダンダンと足を踏み鳴らし、時計の前に座りこんでしまうのでヨシコたちが早く帰りたい時などはととを担ぎ出さねばならない。

 そんな中、いつも事務所のミズノさんは、

「あ、また時計だあ。時計好きだね~」

 と優しくととを担ぎ上げ、まず時計の下の鎖を引っ張らせてくれ、その後

「また、進めちゃおっか」

 と、針を動かしてくれる。

 そして鳩がややせかせかと鳴いてからパタンと戸が閉まると

「はい、おしまい!」

 と、ととの肩に手をやる。

 そうすると、すごーくあっさり「ばいばい」と、ととは時計に背を向ける。

 いつも鳩に会わせてくれてありがとうミズノさん、とヨシコは心の中で手を合わせる。


 ◇◇


 妹ぴかも、無事に小学1年に。

 朝起きてから朝7時過ぎになると、急にとと兄&妹が学校の準備を始め、あわただしく出かけていく、それを横目で見送るとと。

 彼の方が出が遅く、この時着替えかご飯の最中なのです。

 今までのんびりと、自分に付き合ってくれていた妹が、なぜか急にランドセルなど背負って兄と出かけていくのが、なんか微妙に寂しいらしい。

「がっこ!」とぴかの出て行った先を指差しながらも、よく理解できないらしい。

 こんな時、ムリしても一緒の学校が良かったかなやっぱり……などと気弱になる母・ヨシコだった。


 ◇◇


 ととも一足遅れて始業式。

 学校から帰り、すでに夜。寝付くまでヨシコが横に添い寝すると、ひそひそ声で

「まま」

 と呼ぶ。なに? と聞くと、ととは少し考えてから

「あっこ」

 とひと言。学校のことで何か言いたくなったらしい。

 また少し考えてうとうとしたかと思ったら、今度は

「しぇんしぇ」と。

 先生のことについて伝えたかったらしい。多分先生が替わったんだよ、ということだとヨシコは推察。

 まんざらでもない口調だったので、新しい先生とも好印象のスタートらしかった。


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