03
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無事、年が明けた。お年始まわりで、ケイちゃんの実家へうかがう。
まず長男とら。おばあちゃん、おじさん、おばさんからそれぞれお年玉をいただき、かしこまって
「ありがとう」
と言ってからすぐにコソコソと中を確認する。
次、恥ずかしそうにお礼を言っても手はちゃんと前に出している妹。
その間にはさまり、ととは
「あっと(ありがと)」
と軽く謝意を表明し、そのまま袋を持ってどこかに走り去った。
子どもらが騒ぐ中、ゆっくり話をしているヒマもなく帰途につく。
うちに帰ってみると、ととのお年玉が二人分、なくなっているのに気づく。
ケイちゃん、あわてて実家に電話、やはりあちらの家に置き忘れていることが判明。
ヨシコは恥ずかしいので、ケイちゃんひとりで取りに行ってもらう。
不思議なとと。小銭だと、「あった!かに(金)!」と大喜びで拾い上げ、しっかり握りしめて近所の駄菓子屋方面に向けて飛び出して行ってしまったりするくらいなのに、お札には全く興味なし。
その前日も一枚、他のお宅からいただいた札を丸めて後ろに放り投げてしまいケイゃんから叱られたばかりだったのだが。
とにかく、ととの後ろを歩いていればいつか万冊が降ってくるやも知れない、と兄は思ったようで
「とと、いっしょにボールあそびしよう」
とか、少しだけととに優しくなったようだった。
◇◇
とと、ようやく三学期の始業式。
始業式のすんだ日の午後、ヨシコはととにDVDを見せておいて、一人こっそりと家を抜け出し、チャリで幼稚園から帰るとと妹を近くまでお迎えに。
およそ15分後、ようやく娘を拾い、チャリの荷台に乗せて家へと向かう途中、細道(しかし車道)の向こうから、誰かが手押し一輪車を押しながらヨシコの方へ向かってくるのが見えた。
しかも堂々道の真ん中を押してくる。車が来るのに、危ないなあ、と思いつつよけながら近づくと、なんと、それはととでした。
家から百メートルは手押し車を押してきたに違いないのだが、逆光だったということもあり、遠めでは誰か判らないほど堂々とした押し姿であった。ヨシコはずっと、近所でこの頃始まった工事での関係者だと思いこんでいたし。まあ、それにしては小柄過ぎたかも知れないが。
出入りしてるダンプに轢かれなくて良かった。
それにしても比較的短時間で外に出てきてしかもネコ車とは……学校が始まっても油断大敵なととであった。
◇◇
三学期のととは、案外、早起きさん。
冬休み中のダラダラ朝寝坊とはうって変わって、ぱっちりと目が覚める。
そして目覚めてすぐ、枕元にセットした『たいこの歌絵本』でフルに収録曲全部の十曲を順に流して叩く……不思議な日課が始まっていた。
記念すべき第一曲目は「はと」。数日続くうちに、彼が太鼓を叩く前からヨシコの頭の中に、「はと」のイントロが流れるくらい。
そして太鼓叩きが終わると、布団から出てきておもむろに朝ご飯のテーブルにつく。
しかしそれで気を抜いていると大変、太鼓が止んでしばらくしてから朝食のテーブルをみると、彼がいないということもたまにあった。
そんな時には何故かパジャマのままこっそり家を抜け出し、隣の家の玄関先に立っていたり。
冬休みの生活表を見た先生から
「脱走が多かったようで……たいへんでしたねえ」
とねぎらいの言葉をいただくヨシコ。
(いえ三学期に入ってからもけっこう脱走行為は続いておりますのよオホホ)
とヨシコは心の中で受け答えしていた。
脱走と放浪は、すでにととの趣味を通り越し、ライフワークとなりつつあった。




