02
冬休み。とと兄と妹は家での遊びに飽きてきたらしく、近所の友達・ハル君のうちに行こうかと相談している。
電話してみたら、OKとのことで早速支度していた。
「ととはどうするの」と聞いたら「うーん」と考えてから、連れて行こうかな、とか言っている。
行こうとしていたハル君というのは、元々はととの同級生なんだけどね。
よく馴れたうちだし、近いのでまあいいかなとヨシコは思いつつも、それでもととのお目付け役にやはり、私も行かねばならないかな、でも今からケーキ作るつもりだし食事の支度もしたいし、布団も干したままだし、ととの奴ときたら他所のお宅でテレビやら電気やらを勝手にいじるし、自分の気が向くと知らないうちにどこかに逃げ出すし、やっぱり家にいてもらおうか、と考えているうちに……
「いく!!」やばい。急にととが立ち上がった。
それまできょうだいが支度をしているのを横目で見ていたが、やはり気づいたようで、あわてて自分も靴を履こうとしている。
以前はきょうだいのやってることより自分のしたいこと優先ということが多かったのだが、この頃はこのように、結構周りのやっていることに敏感になってきてもいる。
これは成長過程ではとてもいいことなんだろうが、ヨシコにもヨシコの都合が。
しかし「だめ!」言っても聞くような小僧さんではありません。
「あとで、ままと行こうね」これも聞いてない。
弱ったな~、とヨシコは頭をかく。とりあえず、兄には
「静かに出かけてね、ととも行きたがってるから」
と言うが、兄としては別にととがついて来ても構わないらしく、全然気も遣わずにドタドタと靴を履いている。
そのうちに兄と妹、「行ってきまーす」と元気良く出て行った。
そこにとと、
「あって!(待って)」と叫んだものの、間に合わず。
置いていかれたのがよほど悲しかったのか、玄関先でうわ~っと大泣き。
それでも泣きながらも色々必死に考えたらしく
(置いていかれたのは、くつ下を履いてなかったせいかも知れない)
と、あわてて収納から自分のくつ下を出そうとしたが、それも見つからず、更に激泣き。
あまりの哀れさに、ヨシコ、いったんケーキ作り半ばであきらめ、ととを外に連れ出しチャリの荷台にのせてその辺を一周。
初めての経験にとと、もう大喜び。
そして、家に入り今度はケーキ作りを手伝わせる。玉子を上手に割り、材料をそうっと足し、ヨシコが
「あ、牛乳入れるって書いてある」
とつぶやいただけで冷蔵庫にあわてて牛乳を取りに行き、褒めると小鼻をふくらませて自慢げな表情。
ようやく、落ち着いた~、ヨシコは胸をなでおろす。
そこで油断したヨシコを、誰が責められよう……
スポンジを焼き始めた時に、そろそろベランダに干した布団を取り込もうと二階に上がり、少し手間取ってるあいだに、とと、小麦粉を小皿に山盛りに出してしまう。それほどケーキ作りの手伝いが楽しかったのだろうか。
仕方ないので、ヨシコは急きょ、もう一つスポンジを焼くことにする。
オーブンが小さいので、とりあえず先に焼きあがったスポンジを出し、型をすぐに洗い、次のスポンジの支度を。
この時にヨシコ、二度目の油断。
気づいた時には、既にととの姿は見えず。
うわーどうしよう、と思いながら、きょうだいの訪ねたお宅に電話。
「ごめん、もしかしたらととが行くかも。今玉子泡立ててるんでもう少ししたら私も探しにいく」
と先に伝えておくと、先方のママが
「分かった~」と笑いながら応えてくれた。
どうにか二つめのスポンジをオーブンに入れた頃(作業もだいぶ手際よくできるようになったので、十分かそこら後だが)、先方宅のととの同級生・ハル君が自転車で駆けつけてくれた。
「一緒にさがすよ~」と。おお! なんと心強い。とと兄より優秀かも。
外を探しているうちに、とと愛用のシャボン玉ぐっずを道端で見つけ、それを手がかりにどうやら、ナミキ家から二軒先のお宅で発見。
「みんなに心配かけて!」と叱りながら家に帰ると、とと兄妹、ハル君とママが心配して駆けつけていた。
結局、我が家でみなして集うことに。
余分に焼けたケーキを、少し切り分けてハル君たちにお礼に持って行ってもらう。
障がいのある子どもが、外で遊びたいという時にどうしたらよいか、さりげなく悩むヨシコ。
それでも環境に恵まれ皆様のおかげで、どうにかこうにかなっている。
なっちゃいるけれど……自転車操業な日々であった。




