とと七歳・彼にもそれなりの事情な冬
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お誕生日がきて、8歳になりました! (パチパチパチ)
誕生日の夕食はいつものように手巻き寿司とケーキでお祝いすることに。
学童保育の帰りに、ヨシコはととを車に乗せたまま、近所のケーキ屋で注文しておいたバースディケーキを受け取る。
ととは、箱をみてすぐ
「うわっ、あった~!! しょーっと(そうっと)、しょーっと」
と大事そうにひざに乗せ、一路我が家へ。
どたばたと夕餉のしたくが始まる。
さて、食事がほぼ済んだ頃、ととが立ち上がりあちこちウロウロし始めた。
何を探しているかヨシコにはすぐぴんときた。ケーキの箱だね、あれは。
しかし暖房のきいた部屋ではなく、少し離れた洗濯機の上置いていたので、ととは気づかず。
だんだん泣きそうな顔になってきた。
終いには、ヨシコの所に「まま~」とやってきて、冷蔵庫につけたミニ・ホワイトボードのところにひっぱって行く。
ホワイトボードは、ととが言いたいことを上手く伝えられるように、しばらく前にそこに設置していた。
「何?」と、ヨシコがとぼけて聞いてみると、とと、「けーき」という語をどうしても思い出せなかったのか(「あいす」は書いて読めるのに)、しばらく困った表情を浮かべていたものの、なんとか苦労して、ボードに何やら描き始めた。
文字ではなく、イラストだった。
非常にラフな家のようなものと、横には車? みたいな形。しかし、家の屋根はオシャレに波線が描かれている。これは店? そうか……
「さっき車でお店に寄ったよね、あの時のアレ、ほら!」
という意味では? とようやくヨシコ気がついた。
「わかった、お店で買った、コレでしょう」
と、洗面台からケーキの箱を出してきたら、とと、飛び上がって喜び
「あった!!(せい)かい!!」
と、何度も叫んでいる。
「何かのクイズ?」と兄にも言われる。
それにしても、どうしてこんなまわりくどい表現したんだろう、とヨシコも首をひねる。
少し照れくさくて、もったいぶってみたのかしらん?? さすが8歳。
プレゼントには、太鼓をたたいて遊ぶの歌の絵本。十曲のカラオケにあわせて、おもちゃの太鼓をたたいて遊ぶ、いう、いかにもととが好きそうなおもちゃ絵本。大太鼓と小太鼓がついて、音も何種類か選べる優れもの。
童謡5曲と「はたらくくるま」「サザエさん」「ドラえもんのうた」「おどるポンポコリン」「さんぽ」もあって、きょうだいも熱唱(?)、ととも夢中でトントコやって誕生日の夜は更けていった。
◇◇
学校のマラソン大会。
去年のマラソン大会では、ゴール寸前に受け狙いでコテン、と転び、母・ヨシコはかかなくてもいい冷や汗を。
そして今年の秋の運動会でも、今度はスピード勝負の徒競走でまたゴール寸前コケ。せっかく一位だったのに、結局ビリで到着。
ヨシコはもう、悪夢を見たくなかった。
1、2年生は600メートル走とのこと。ヨシコは前日の夕飯どき、長男に言ってみた。
「アンタの学校じゃ、マラソン大会ってないけど、ととの学校ではあるんだよ。600メートルも走るんだよ」
「へー、でもそんなたいした距離じゃないじゃん」
というとらの反応にヨシコは声を大にして
「アンタ! 運動場3周だよ、3周!」
と教えてやったら、さすがに少しは感心した様子ではあった。でもその後
「ぼくだって、体育館を23周したことあるよ」と何となく強がってみせた。しかし何その半端な周数。
本番の日。ヨシコたち父兄はまずは中庭でのウォーミングアップを見学。
みなそれぞれにはりきって走る中、ととは中庭にひかれた矢印のマークをひたすらしみじみ踏んで歩いていた。なんか最初から勝負を投げている様子。
そしていよいよ、1年生と2年生が同時にスタート。
先導のきかんしゃトーマス(に扮した先生)が「いくぞ~!!」と走る後ろを、子どもらがわ~っと張り切って飛ばしていく。
まずは運動場1周。この時点でやる気のある子ない子でだいぶ差がついている。
ととは、といえば、ちょうど中間くらいか。
歩行が大変な子、完全にマイペースな子などが運動場を出る頃にはすでにトップランナーがゴール・イン!
ととは、途中ですっかり立ち止っているが、後ろからきた先生に背中を押され、どうにかやる気が戻ったようで、また走り出した。
待つことしばし、かなりの子どもがゴールした後、ようやくととの姿が。
ニコニコしながら、それでもゴール直前で少しスピードを上げ、そのままゴール・イン。
まともなゴール風景に、ヨシコもしばし我を忘れて歓声をあげる。
先生からさかんな祝福を受け、まんざらでもなさそうなとと。
今年は色物なしで済んだ。みんな一生懸命がんばりました。めでたしめでたし。




