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02

 ◇◇


 妹が、自転車に乗れるようになった。しかも補助輪無しで。

 それに気づいた日のとと、なんだかいじわる気分。

 妹が縄跳びをやっているところに、小石を投げ込みジャマを。妹に怒られると、更に砂まで混ぜて応戦。

 今度はヨシコにまで怒られた。腹いせに「ぎぃ!!」と自分の自転車を投げ倒し、また妹の縄跳びスレスレの位置に座って、非常にいぢわるな目線で、彼女の様子をうかがっている。

 よく見ると、妹が縄にひっかかるたびに、足元に小さく「×」を書いては、見られないうちに急いで消していた。

 とにかく、スケールの細かい復讐で。


 ◇◇


 ととも、きょうだいもみな夏休みに突入。

 とらとぴかはいつも二人で人形を並べておままごと。細かく不可思議なワールドを作り上げては会話を楽しんでいる。

 そんな遊びがととの気に入るはずもなく、彼はひとり、庭のプールで水遊び。

 勝手に行って、勝手に水をためて入っているので近頃はあんがいヨシコも目を離していることが多い。


 そんなある日。


 とらとぴか、相変わらずよく分からないシチュエーションのままごとをしている。

 ととは一人で庭プール。

 兄妹の会話がきこえる。

 まずはぴかの声。

「おかあさん、しんじゃったことにしよう」

 ナンデスト!? とらも答える。

「うん、しんじゃったね」

続けてぴか、「おかあさん、めんたま飛び出してしんじゃったね」

「うん」

 あまりにもショッキングな会話についヨシコ

「ちょっと、そんなかわいそうな事言わないでよう」

 と口をはさむと、ぴかに

「聞かないで!!」

 と怒られてしまった。

「じゃあせめて、お母さん気絶した、くらいにして」

「いいよ」そう言ってぴかは続けて

「じゃあおかあさんきぜつして、めんたま飛び出してしんじゃったね」と。

 とほほほ。

 急ぎの用事があったので残酷きょうだいに留守を頼み、ヨシコ、あわてて車に乗る。

 車のすぐ隣の庭プールに浸かっていたととを急いで担ぎ出し、車に乗せる。(さすがに彼を一人で置いていく勇気は、ない)

 エンジンをかけたとたん、なんとジョ~~~っっと勢いのよい水音が。

 バックミラーみてびっくり。マフラーから激しく水が噴き出しておるではないか!! 哀しいデジャ・ヴ。

「またかよ……」しかし車は走ってナンボ。ヨシコは少しくらいのことでは動じなくなってきた。

 だって目ん玉飛び出してんだからー。

 完全開き直りのヨシコはそのまま爽やかに車を走らせて行った。


 ◇◇


 老人病院でのお祭りとのことで、デイで利用しているケイちゃんのお母さんに誘われ、子どもを三人連れて出かけてみる。

 一般客がほとんどいなかったので、ちょっと遠慮しながらだけどジュース、カキ氷、ヤキソバ、おでん、冷やしぜんざいとそれでも次々と平らげる。

 だって、無料なんですもの。

 昼食をとってから出かけたにも関わらず万年欠食児童の子どもらは始めはオズオズと、そしてだんだんガツガツと片っ端から食いさらっている。

 入院中やデイ利用のお年寄りの方々も、介助員に付き添われたり、一人で好きなものを選んで口にしている。


 そんな中。

 たまたま、ととの斜め横に座った車椅子のおばあさん、どうも認知症のご様子。

 一言も発せず、介助の方がすすめるに任せ、ヤキソバを目の前にしたまま、じっと固まっていた。

 箸も、介助の人が持たせたはいいが、おばあさんはそのままの状態でじっとこちらを見ているのみ。

 ととも、そんなおばあさんをじいっと見つめている。

 視神経に何か問題があるのかも知れないが、ととの見方は少し斜にかまえた感じで、しかも目を細めて顔をしかめて見つめるので、はたからみるとこれは「ガンとばしてる」ポーズとしか思えない。

 おばあさんの方も、更にまじまじと彼を見つめている。

 テーブルを挟んでにらみ合う二人。

 固唾をのみ、見守るヨシコ。

 と、急にとと、おばあさんをじっと見つめたまま手元の小皿を持ち上げ自分のヤキソバをガガガガ~っっとドカ食い!!

 するとおばあさんも、自分のヤキソバをがっ、と掴み上げて同じようにガガガガ~っっとむさぼり始めたではないか!!

 何なんだこの息詰る闘い! といっても周りはまるで気付いてなかったが。

 あのおばあさん、体調崩してなければよいが……とヨシコはいつまでも気になっていた。


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