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03

 ◇◇


 さてここで軽いクイズをひとつ。


 子どもがひとり、停めてある車の中で二次醗酵作業を行っていた生のドーナツを6つ、食べました。

 さて、どうなるでしょう。

 答えは……


「5時間後にゲロゲロ吐く」でした~。


 それでも一度で済んだのでよかった、よかったことにしよう。ヨシコは汚れたシーツを真夜中にゴシゴシと洗いながら自分に言い聞かせた。


 ◇◇


 病院での定期検診。

 すごくすごく待たされ、とと、はじめからやる気ゼロだったのが(だってオレ健康だし)、待たされること二時間に及び、とうとう靴を脱いで靴下も片方放り出し、床に腹ばいに寝転がってストライキ。

 ヨシコがいくら叱ろうが説得しようが、姿勢を変えず。

 通りかかった知人から

「ととちゃん、足指の形がいいね~」

 とほめられる。

 世の中、何で評価されるかわからないものです。


 ようやく中に呼ばれて、ととはようやく靴を履き、先生の前ではしおらしく椅子に座っている。

 一応、最低の線では場をわきまえているということか……ヨシコは急にしゅんとしたととを横目で見ながら先生に近況を伝えていた。


 花の都東京からわざわざ月に一度、ヨシコの住む町の病院に足を運んで下さっているその先生は小児科、しかも染色体異常の権威とも言える有名なドクター。しかし、ぜんぜん偉そうな感じではない。いつもニコニコと笑顔を絶やさず、語り口もソフトで、親の訴えを真剣に聴く上に、優しいながらも真摯に受け答えをしてくださる。

 ととは健康面では特に問題はなかったが、それでもダウン症に合併しやすい頸椎の緩みや聴力、視力などの見守りのため、幼い頃にはだいたい2ヶ月か3ヶ月に一度は先生に診ていただいていた。少し成長してきたこの頃には半年に一度の頻度となっていた。

 他のダウン症含め染色体外来にかかる子どもや大人がいつもこの月に一度の診察日に詰めかける。この近辺には他に専門医がいないこともあるのだが、この日にいつも混みあう理由には、先生の評判も大きく関係しているのだろう。

 たくさんの患者さんを見守ってくださる先生には心底感謝していたヨシコだが、それでも待ち時間の過ごし方には毎回悩まされていた。

 特に、動きまわりたいととにとっては、長い時には一時間以上も待合室に座っているというのは苦痛でしかない。

 見通しという点においてもまだまだ未発達な彼、いつの日か、落ちついて待合室に座って順番を待つ、ということができるようになるのだろうか……

 そういうイメージを頭の中で色々思い浮かべ、まだまだ遠い先のことだろうな、とヨシコはひとつため息をつく。


 ようやく会計まで済み、後のお楽しみ、休憩スペースにて17アイスを二人で食べる。

 これがあるからがんばれる、的な笑みを満面に浮かべ、ととは鼻の頭からあごまでべっちょりクリームまみれになってアイスを食す。

「とと、疲れたね~」

 とヨシコが声をかけると、ととは白い鼻先のまま

「うんっ」

 と元気よくお返事。ヨシコは笑顔のままつぶやく。

「私もね、すげー疲れたよ……」

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