とと七歳・痛いだの何だの身をもって学ぶ春 01
とと画・ライオンは依然逃走中です。
気がついたら、ととも小学二年生になっていました。
◇◇
学校生活も二年目で慣れてきたはずなのだが、やはりそこかしこで色々緊張しているのか、帰りのスクールバスでうたた寝していることも多い。
バスから降ろすと手がほかほか暖かい、ということもよくある。
しかし家に帰ってくると、やっぱり近頃乗れるようになった自転車に乗りたくてたまらないらしく、必ず一回はサイクリング。まあ、補助輪付きなので正確には四輪車なんですが。
機動性は低い、と見くびっていたヨシコだったが、だんだんと小走りでなければ追いつけない速さになっていった。
ヨシコは焦る……パンクしたままの自分のチャリを早く修理しておかねば。この足で追いかけていたら、いつか逃げ切られてしまう。
焦るヨシコをしり目に、自転車ヤローは楽しげにペダルを漕いで行く。
◇◇
ある晩、ヨシコは風呂でふと、ととを見て気がついた。
「コイツ……太ももが、太くなってきたぁぁ!!!!」
毎日学校から帰って来ると、たいがい補助輪付き自転車で家の近所を走り回るのが近ごろのトレンドになっていた。
ばあちゃんのスカーフをマントにして遊ぶのも好きだったが、マント姿のまま自転車で出かけることも多い。変な柄付きの変身ヒーローといった装いだった。
先日はマント装着のまま、コースアウトして田んぼに落ちる事案発生。1メートル以上の落差はあったものの、草がフカフカしていて無事だった。
正義の味方は出動時から危険がいっぱいのようであった。
◇◇
お風呂はできるだけ無駄のないように、子どもをまとめて入れるナミキ家であった。
兄・とらと妹・ぴかとを風呂に入れてヨシコも一緒に浴室に。そこに、とと参上。
下湯もせずに、いきなり湯船に入り込もうとするので
「おいおいおい」
ヨシコ、いったんは押しとどめたものの結局、ととは湯に入ってしまった。
しかし入ってから様子がおかしい。
「ん?」
その場でじっと立ちつくし、なぜか固まっている。
ふと気がついてヨシコが前面に手を当てると、明らかに激しい水流が!!
そう、ととは只今水面下ギリギリで放水中。
柿田川湧水のごとく(見た目だけは)清らかな湧き水。しかし場内大パニック。
「オイちょっとワレェ!」ヨシコはあわてて彼を外に担ぎ出した。水から上げたとたん放水もぴたりと止まる。意外なところで几帳面なヤツ。
でもまだ途中だったらしく、目線と手の動きで
「トイレに行ってきます」というので、仕方なくヨシコはととの体を簡単に拭いてトイレへと送り出した。
それでも、ととの入浴も徐々に自立してきた感触があった。
その晩も1人で服を脱ぎ始めたので「えらいな~」とおだてながらヨシコが少し目を離した所に……思わぬ伏兵が。
突然ぎゃあ、とけたたましい猫の叫び声。
ヨシコが駆けつけると、風呂場からびしょぬれの猫が飛びだしてきた。そして風呂場には腕から血をダラダラ垂らしたととが涙目でたたずんでいる。
ノコノコやってきた猫を風呂に一緒に入れようとしたらしい。猫が逃げ去った軌跡は、廊下までビチャビチャ。
ととはそれでも泣かずに立ち尽くしていたものの、「何してんの!?」とヨシコの声が飛んだとたん、大粒の涙がポロリ。
固く絞ったタオルで傷をぬぐうと、派手な血の割に傷は浅くて済んでいた。
「あのね」ヨシコは涙もついでに拭いてやりながら言い聞かせる。
「猫はいっしょに、おふろにはいりません。わかる?」
そんなことはわかってるよ、と言いたげなととの口もとであった。
しかしきっとまたもう一度くらいは試してみるだろう、とヨシコには確信があった。




