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長男・とらはもうじき、小学校の入学式を迎える。
とらのために、夫・ケイちゃんのご両親がお祝い金をくださったので、学習机を買ってやることに。
不思議な出来事は、机納品の翌日から起こった。
何故か態度が荒れ始めたとと。
テレビの上に乗って動かない。妹をつきとばす。返事をしない。わざと水たまりに飛び込んだり、急に外に飛び出したり(これはいつもだったが)。
ある晩、もう寝かせようとヨシコはととを呼んだ、だがいつものような「あい」という返事がない。
探してみると、なんと彼、兄貴の新しい机の前に座り、卓上ライトをつけて、じっと説明書を読みふけっていた。
そう、彼の得意技は『プチ家出』の他には『読んでるフリ』なども。
その読んでるフリの後ろ姿が、ヨシコの目にはどことなく淋しげに映っていた。
とらの入学式も済んである晩のこと。小学一年の兄貴がふだんつけている名札を、ととがこっそり持ってきた。
ヨシコの服の袖をひっぱり、名札を自分の胸に当てて、
「うー。うー」
としきりに何かうったえている。
「ああ、名札つけたいの?」とヨシコが聞いたら、うんうんとうなずいた。
ヨシコが彼の胸に名札をつけてやると、ペンギンのように両手をつっぱり、喜びのポーズ。
とらは気づいてか気づかないでかテレビに夢中だったので、ヨシコはそのまま放っておくことに。
しばらくしてから、ととがいないのに気づき、ヨシコはあたりをきょろきょろ。
なんと、兄貴の机の上からランドセルを下ろしてきて、廊下の隅で一生懸命背負おうとしている。
苦労している様子が面白く、ヨシコは少し手を貸してやる。
無事、ランドセルを背負い、ととは得意げに廊下を歩いていた、兄貴に見つからないように、一応居間の方に目配りしつつ。
名札にはランドセル、というつながりが、近頃のととにはミョーにあこがれの対象として映っている、らしい。
「オマエも来年は、小学一年なのだよ」
ヨシコは廊下を往復するととを見ながら、つぶやいてふと思う。
ととの入学を予定している特別支援学校は、スクールバス通学等の事情もあり、かさばるランドセルでは活動に不便だということで、リュックサック通学が一般的だった。こんなにランドセルを愛しているこの子がいざ入学の時、新しいランドセルを貰えないのだと知ったらどんなに哀しむか……
まあ、その時考えることにしよう、とお気楽なヨシコは廊下を往復行進中のととをいつまでも見守っていた。