03
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それでも学校ではいっしょうけんめい過ごしているようで、担任の先生が連絡帳にこまごましたことを色々書いてくれるので学校生活がよくわかる。
「ビビンバは好きなようでニコニコ食べました」
「うた遊びでしっかりこちらの手の動きを目で追ってマネしていました」
「ホウレンソウに苦戦しました」
「アンパンマンまで競争して一番になりました」
などなど。とりあえず出だしは順調。
ある朝、ばあちゃんが「ととや、いってらっしゃい」と声をかけると
「ようようようあっしゅ!」
とこたえていた。
ただのオウム返しではなく、一応行ってきますと言っていた様子。
◇◇
ある日。いつものように元気よくスクールバスから降りて来たとと。
ヨシコは車に乗ってからいつものようにカバンを開けて連絡長を開き、はっとする。
「隣に座った子に腕を噛まれ……保健室で処置を……このような事故が防げず申し訳ありませんでした」
とある。
「とと、腕をガブッてかまれたの?」
と試しに聞いたら、急にしおらしく
「うう……うう……」
と何か訴えながら長袖をめくってみせた。手首の少し上にガーゼがとめてある。
聞かれて応えた、という所から見ても、けっこう気にはしていたらしい。
ヨシコがそっとめくってみると、みごとな円形の歯形。切れてはいないが赤く、痕がついていた。
その日たまたま一緒に車に乗っていた兄と妹が両脇から
「ケンカしたの? ととちゃん」
「……でも、しゃべれないどうしだからケンカになるのかなあ……」
と、やいのやいの言っている。
「いたかったね~かわいそうに」
「どっちがわるかったんだろう」
「ととは悪くなかったらしいよ。急に噛まれたって」
とヨシコが口をはさむと
「えっ?? じゃ、とと、やりかえしていいよ。ぼくが許す」
「そうだよ、ととちゃん、やりかえしていいよ」
妹と兄が両脇からととに同情的なことを言う。そのたびにとと、そちらを向いては神妙な顔して頷きながら聞いている。
しかし、さすがとと。家に帰ったらすっかり腕のことなど忘れ、重いバケツを運んできては泥遊びに精を出していた。
夕方近く、先生からお詫びと報告の電話をいただいた時も、すっかりテレビに夢中であった。
痕が消えるより早く、嫌な思い出も消えていった……とヨシコは思うことにした。
◇◇
いつもはお互い思いやりにみちた妹とでも、そりゃきょうだい、ささいなことでケンカも。
元々どんな理由なのか、結果的には2人とも泣いて怒る。
しばらくにらみ合いのあと、ようやく妹が
「やっぱりととちゃんをゆるしてやる」
とエラソーに宣言。そしてととに向かってこれもまたエラソーに
「ごめんね」と。
ここで普通ことばがオウム返しに出るととだが、この時は反射的に
「(いい)よ!」と答えが!!
「ととも、ちゃんとごめんねって言いな」とヨシコが促すと
しぶしぶだが「(ごめん)ね!」と、ととが言い妹が「いいよ」と答えて、仲直り成立。
きょうだいよ、末永く仲良くするんだぞ。ヨシコは二人の肩をぽんぽんと叩く。
「お互いに頼りになるときがきっと来るからね
…………来ると思うけど」




