03
春まだ浅き三月のはじめ。
とと、三ヵ年の幼稚園生活に別れを告げる日、そう、卒園式。
何度も証書の授与も立ったり座ったり歌ったりも幼稚園で猛練習、その成果をヨシコは少し離れた席できっちりと見守る手はずになっていた。
ところが。
肝心のとと、朝からまるで食欲がなく顔色も悪い。
ひそかに流行っているらしい嘔吐下痢がタイミング悪く発症か? ヨシコは密かに危惧しつつも、ようやく卒園式会場に連れて行く。
修了証書は、上手に返事をして受け取りにいく。それでも立ち止って礼などは、すっかり飛ばしている。
まあいい、とにかく早く終わってくれ、ヨシコはカメラにその姿を収めるのも忘れ手に汗握っている。
式の最中でとと、一度トイレを(目で)要求。ヨシコは式次第の切れ目に主任にこっそり耳打ちし、ととを担ぎ出す。
間一髪で下痢セーフ!
その後のととは、イスにも座りたくないようで、ずっと床に寝転んで上目遣いに様子をみていたが、卒園児のことばのところでもの憂げに起き上がり、自分のところは
「うー、うう、たた」
と一生懸命いおうと努力。
ヨシコは脇の席からドキドキし通しで、感涙どころではなかった。
昼からの謝恩会は、体調不良を理由に一足先に帰った親子。ととは張りつめていたものが緩んだせいか、夕方から38度以上の熱が出て、完全に食事を受け付けなくなった。
それにしても……ヨシコはしみじみ感じる。
温かい幼稚園だったなあ、と。園のみなさん、お友だちの一人ひとり、保護者の方々すべてに感謝かんしゃの三年間であった。
障がいのある子に対してどうしようこうしよう、という特別の姿勢がない、ということが常々感じられて。
とにかく、その時々で弱い立場の人を思いやるというスタンス。
これが、どこも簡単にできるようで、なかなかできないことなんだろうな、とヨシコは改めて思っていた。




