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AS(アクターステーション)  作者: ただっち
1章-入部編
2/5

体験入部その2

 腹筋のメニューが終わった後も、引き続き筋トレは続いた。

 腕立て伏せに、背筋、スクワットそして側筋という、漁港であがった魚みたいな動きをする筋トレなどを行った。こんなにも筋トレをやったのは人生でも初めての事だったので、すでに軽く筋肉痛である。

 筋トレ終了後に5分間の休憩をはさむようで、部長が休憩の合図を出すと部員たちは水分補給などを行っている。

 休憩しながらも、先輩方は俺たち1年生に気軽に気さくに声をかけに来てくれた。


「大丈夫? 結構大変でしょ」


 と言うのは2年建築科の中谷なかたに先輩である。中谷先輩は元々、中学では野球部であったのだが将来アクションスターになりたいそうで、この部活に入ったと言っていた。

 その後ろから、小柄な眼鏡をかけた先輩が


「誰だって、最初はきついから入部するなら覚悟しといたらいいよ~」


 といい出てくる。この先輩は3年機械科の色紙いろがみ先輩である。色紙先輩はこの学校内でも有名な機械オタクで、基本的にはカバンの中には分解用の工具で満たされているという噂が立っている。

 また、プログラミングも得意らしく、現在はそれを応用して音響用のプログラムを作っているらしい。


「お! ちびが1年になんか言ってら」


 といい、色紙先輩を持ち上げたのは3年自動車科のとどろき先輩だ。轟先輩はこの学校の中でも1,2を争うほどの高い身長の持ち主で、現在は201cmあるそうだ。デカい!


「ちびって言うな!」

「お? かかってくるか?」


 といい、2人は喧嘩を始めてしまった。

 まあ、喧嘩と言っても轟先輩が色紙先輩の頭を押さえて、色紙先輩が子供みたいにぶんぶん拳を轟先輩に向けて殴りかかっているという、まあよく見る親と子供の喧嘩である。


「ほんと、いつも思うけど親子喧嘩みたいね」


 と3年化学科の伊呂波いろは先輩はくすくす笑いながら言う。

 この伊呂波先輩は女優みたいな顔立ちのすごくきれいな先輩で、実質的に化学科のマドンナと言う噂が立つほどの人気で他校の男子生徒がわざわざ、告白しにくるレベルなのである。


「よし、休憩終わり! 練習再開するぞ!」


 と部長がいい、その瞬間先ほどまで喧嘩していた2人もぴたりと止め、円形の陣形になった。


「発声練習から行くぞ。よーい、スタート!」


 そういうと、1年生以外は全員声を揃えて


「「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」


 と声を出し始めた。俺たち1年生は何をしていいのか分からなかったが、部長が近づいてきて


「えっとね、この練習は……」


 と説明をしてくれた。


「演劇をやる上で、大切なのは腹式呼吸を用いて喉に負担をかけないように声を出すことが大切なんだ。肺呼吸で声を出すと、どうしても喉に負担がかかってしまうんだ。腹式呼吸っていうのは、簡単に言えばお腹から声を出すって事なんだ。つまりは・・」


 とその場に部長は仰向けで寝転がる。そして、ジャージの上を少しまくってお腹を見せる。


「今から、腹式呼吸で声を出すから、お腹に注目していてね」


 といい部長も他の先輩方と同様に声を出す。この時の部長のお腹に注目してみると、呼吸を吸うときにお腹が膨らみ、声を出す時にはお腹がへっこんでいる。

 (これが腹式呼吸か……)

 と俺は考えながら、部長のお腹を見ている。他の1年生もその様子をまじまじと眺めている。

 そして部長は立ち上がり俺たちに


「最初は立ってやるのが難しいと思うから、寝転がってやってみて」


 と言う。俺やほかの1年生は”分かりました”といい、寝転んであおむけの状態で声を出す。


「「あーーーーーーーーー」」


 (確かに、これはきついな。意外と、お腹の下あたりにくるし、何より声を出すのが難しい。よく先輩方は、これを普通にしているな。)


「「あーーーーーーーーー」」


 パンパン! と、部長の合図で声出しが終わった。思っていた以上に腹式呼吸で声を出すのが大変であった。


「じゃあ、次は滑舌練習ね。今日の早口言葉は・・じゃあ、中谷決めて」

「はい。じゃあ、今日は体験入部の子がいるから、簡単なのにしようかな。”生麦生米生卵”で」

「よし、じゃあこれを全員で声を揃えて3回言います。よーい、スタート!」

「「生麦生米生卵・生麦生米生卵・生麦生米!」」


 (よし、これは何とかできた。)

 他の1年生も全員で来たようで、少し自信が出てきたような顔をしている。


「じゃあ次は難しいの行ってみようか・・じゃあ、葛城。次よろしく。」

「分かりました。じゃあ、”ドジョウニョロニョロ3ニョロニョロ、合わせてニョロニョロ6ニョロニョロ”で」

「よし、じゃあよーいスタート。」

「「ドジョウニョロニョロ3ニョロニョロ、合わせてニョロニョロ6ニョロニョロ!・・」」

「ドジョウニョロニョロ3ニョリョニョリョ、合わせてニョロニョロ6ニョロニョリョ・・」


 1年生全員噛んでしまった。先輩方はスラスラ言えている。すごいな・・。


「じゃあ、次の練習に行きましょうか。次は外郎売を読みます」


 (外郎売?なんだろうそれ)

 と思っていると部長が、びっしり文字の書いてある紙を渡してきて


「これが外郎売だから。これに書いてあること読むだけだから、簡単だよ」


 と言ってきた。

 そして部長の合図とともに、外郎売の朗読が始まった。


「「 拙者親方せっしゃおやかたと申すは、お立ち会いの中に、御存知ごぞんじのお方も御座ござりりましょうが、御江戸おえどって二十里上方にじゅうりかみがた相州小田原一色町そうしゅうおだわらいっしきまちをお過ぎなされて、青物町あおものちょうのぼりへおいでなさるれば、欄干橋虎屋藤衛門らんかんばしとらやとうえもん只今ただいま剃髪致ていはついたして、円斎えんさいとなのりまする……」」


 と言う感じで5分間くらいの朗読であった。ちなみに外郎売りの本文は


 ”拙者親方と申すは、お立ち会いの中に、御存知のお方も御座りましょうが、御江戸を発って二十里上方、相州小田原一色町をお過ぎなされて、青物町を登りへおいでなさるれば、欄干橋虎屋藤衛門、只今は剃髪致して、円斎となのりまする。

 元朝より大晦日まで、お手に入れまする此の薬は、昔ちんの国の唐人、外郎という人、我が朝へ来たり、

 帝へ参内の折から、この薬を深く籠め置き、用ゆる時は一粒ずつ、冠のすき間より取り出す。依ってその名を帝より、とうちんこうと賜る。即ち文字には、「頂き、透く、香い」と書いて「とうちんこう」と申す。

 只今はこの薬、殊の外世上に弘まり、方々に似看板を出し、イヤ、小田原の、灰俵の、さん俵の、炭俵のと、色々に申せども、平仮名をもって「ういろう」と記せしは、親方円斎ばかり。

 もしやお立ち会いの中に、熱海か塔ノ沢へ湯治にお出でなさるるか、又は伊勢参宮の折からは、必ず門違いなされまするな。

 お登りならば右の方、お下りなれば左側、八方が八棟、表が三棟玉堂造り、破風には菊に桐のとうの御紋を御赦免あって、系図正しき薬でござる。

 イヤ最前より家名の自慢ばかりを申しても、御存知ない方には、正身の胡椒の丸呑み、白河夜船、さらば一粒食べかけて、その気見合いをお目にかけましょう。先ずこの薬をかように一粒舌の上にのせまして、腹内へ納めますると、イヤどうも云えぬは、胃、心、肺、肝がすこやかになりて、薫風喉より来たり、口中微涼を生ずるが如し、魚鳥、茸、麺類の食合わせ、其の他、万病速効ある事神の如し。

 さて、この薬、第一の奇妙には、舌のまわることが、銭ゴマがはだしで逃げる。

 ひょっとしたがまわり出すと、矢も盾もたまらぬじゃ。

 そりゃそら、そらそりゃ、まわってきたわ、まわってくるわ。

 アワヤ咽、さたらな舌にカ牙サ歯音、ハマの二つは唇の軽重、開合さわやかに、あかさたなはまやらわ、おこそとのほもよろを、一つへぎへぎに、へぎほしはじかみ、盆まめ、盆米、盆ごぼう、摘立、摘豆、つみ山椒、書写山の社僧正、粉米のなまがみ、粉米のなまがみ、こん粉米の小生がみ、繻子ひじゅす、繻子、繻珍、親も嘉兵衛、子も嘉兵衛、親かへい子かへい、子かへい親かへい、古栗の木の古切口。

 雨合羽か、番合羽か、貴様のきゃはんも皮脚絆、我等がきゃはんも皮脚絆、しっかわ袴のしっぽころびを、三針はりなかにちょと縫うて、ぬうてちょとぶんだせ、かわら撫子、野石竹。

 のら如来、のら如来、三のら如来に六のら如来。

 一寸先のお小仏におけつまずきゃるな、細溝にどじょにょろり。

 京のなま鱈奈良なま学鰹、ちょと四、五貫目、お茶立ちょ、茶立ちょ、ちゃっと立ちょ、茶立ちょ、青竹茶せんでお茶ちゃと立ちゃ。

 来るは来るは何が来る、高野の山のおこけら小僧。

 狸百匹、箸百膳、天目百杯、棒八百本。武具、馬具、ぶぐ、ばぐ、三ぶぐばぐ、合わせて武具、馬具、六ぶぐばぐ。

 菊、栗、きく、くり、三菊栗、合わせて菊栗六菊栗、麦、ごみ、むぎ、ごみ、三むぎごみ、合わせてむぎ、ごみ、六むぎごみ。あの長押の長薙刀は、誰が長薙刀ぞ。

 向こうの胡麻がらは、えのごまがらか、あれこそほんの真胡麻殻。

 がらぴい、がらぴい風車、おきゃがれこぼし、おきゃがれ小坊師、ゆんべもこぼして又こぼした。たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりから、ちりから、つったっぽ、たっぽたっぽの一丁だこ、落ちたら煮て食お、煮ても焼いても食われぬものは、五徳、鉄きゅう、かな熊童子に、石熊、石持、虎熊、虎きす、中にも、東寺の羅生門には、茨城童子がうで栗五合つかんでおむしゃる、かの頼光のひざもと去らず。

 鮒、きんかん、椎茸、定めて後段な、そば切り、そうめん、うどんか、愚鈍な子新発地。

 小棚の、小下の、小桶に、こ味噌が、こ有るぞ、小杓子、こ持って、こすくって、こよこせ、おっと合点だ、心得たんぼの川崎、神奈川、程ヶ谷、戸塚は、走って行けば、やいとを摺りむく、三里ばかりか、藤沢、平塚、大磯がしや、小磯の宿を七つ起きして、早天早々、相州小田原とうちん香、隠れござらぬ貴賤群衆の花のお江戸の花ういろう。

 あれあの花を見てお心をおやわらぎやという。産子、這子に至るまで、この外郎のご評判、ご存じないとは申されまいまいつぶり、角出せ、棒出せ、ぼうぼうまゆに、臼、杵、すりばち、ばちばちぐわらぐわらぐわらと、羽目をはずして今日お出でのいずれも様に、上げねばならぬ、売らねばならぬと息せい引っぱり、東方世界の薬の元締め、薬師如来も照覧あれと、ホホ敬って、ういろうは、いらっしゃりませぬか。”


 と言う言いにくい文章である。この文章は歌舞伎のセリフで、アナウンサーの研修などでも用いられるほど滑舌練習にもってこいなものである。

 先輩方はこの文章を暗記しているらしく、すらすらと言えているが実際に読んでみると難しい。

 特に中盤辺りが俺的には、読みにくかった。

 そして、外郎売が終わったところで


「じゃあ、演技練習始めるから、その前に3分間休憩ね」


 と部長が言う。いよいよ、楽しみにしていた演技の練習が始まるわけである。


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