YOU ARE MY FIRST!
番外編が始まります。
「何コレなつかしー!」
ファイルの整理のため、引越してきた時に色々詰め込んだ段ボールの中をあさっていたある日のこと。
幼稚園の“卒園文集”為るモノが、その奥から出て来た。
片付けとか始めると、こうやって懐かしいモノとか面白いモノとか見つけちゃって、読み耽って結局は全然進まないんだよね。
そんなことを思いながら、勿論その通りに、私はパラパラと文集を開く。
小学校や中学校の文集とは違って、卒園アルバムも兼ねた数十ページの冊子。
パラパラとめくっていると一枚の紙きれが挟まっていた。
「―――すき…、きらい…?」
“すき”と書かれた文字の下には、順位らしき数字が5つとその横に並ぶ5人の名前。
「5い、ひろしくん…」
ああ、そういえば。
男の子たちに追いかけられていた時に、“女の子をいじめるなっ!”って、両手を広げて庇うように守ってくれた、ヒーローみたいな男の子がいたっけ。
それが確かヒロシ君。小学校が違ったから、卒園の時以来会ってないけれど、幼稚園児ながらにときめいてしまったのを覚えてる。どんな大人に、なったのかな。
「きらい 2い せいじくん……」
この子、覚えてる。組1番の、スカートめくりの常習犯!
だから女の子たちは毎日、その子から逃げていた。
私もスカートを股に挟んで、「ズボンだもん!」なんてごまかしたっけ。
それで騙されてたよなあ、セイジ君。
他にも色々な子の名前が書いてあった。
こんな風にエピソードまで思い出せる人もいれば、いたっけ?って子もいた。
でも、“すき”の1番はやっぱり――――
「皆実ー、入るぞ」
コンコンとドアを叩く音がして、返事も待たずに圭祐が部屋に入って来た。
それも割といつものことなので、私もあまり気にしない。
「飯出来たぞ―――…って、何笑ってんの?」
「うん。圭祐ってば、私の1番を総ナメだなーと思って」
「何?あーソレ文集?」
「うん」
「懐かしーな。何が1番って?」
「コレ。この時の私の好きな子嫌いな子ランキングベスト5」
私は圭祐に、その紙きれを差し出した。
それを見て、ざっと目を通してから、圭祐は噴き出した。
「何だコレ!こんなん書いてたのかよオマエ」
「可愛いでしょー」
「可愛い可愛い」
「……」
「や、本当だって」
棒読み+鼻で笑った彼を、じとっ、と睨みつけたら、笑いながらフォローをする。まあいいんだけど。
「おーオレ1位!さすが!」
「まずコレで圭祐は1番でしょー、初恋だからそれも1番。」
「うんうん、そんで?」
「手を繋いだのも1番、ラブレターだって1番多く書いたし、バレンタインデーも1番にあげてた。それに1番泣かされたー」
「そーだっけ?」
「そーだよ!」
「1番殴られた覚えはあるけど…」
「これからも増やせるよ?」
「や、まじ勘弁して下さい。」
両手をあげて降参のポーズをする彼を見て、優位に立った私は握った拳の力を抜いた。
「1番の親友だし、今1番近くにいる人。」
「総ナメだな。」
「きっと私が誰かと結婚しても、圭祐には“1番”は敵わないんじゃないかなあ。」
「確かにな、殿堂入りだ」
「名誉なことだぞ、自信を持て」
「…何で偉そうなんだよ」
ポン、と圭祐の肩を叩いたら、不服そうな声が返って来た。
「てかゴメン、何の用だったっけ?」
「はっ!そうだ飯!オレの力作が冷める!」
ふと時計を見ると1時を回っていた。そういえばお腹も空いてきた。
リビングから、美味しそうな香りが漂ってることに今更気付いた。
「この匂い!肉じゃが!」
「中々の出来だぞ、早く食おうぜ」
「わーい!」
両手を高くあげてバンザイをして、私たちは良い香りのする方へと向かった。
「いただきまーす」
「昼飯ちゃんと作るの久しぶりだなー」
「ね。揃ってお昼食べるのも。」
「せっかくの休みだ。そうだ、映画でも行くか?」
「いーねえ!何観る?」
「今といえばアレだろ……」
あれやこれやと映画のタイトルを言い合って、一つのものに決定する。
口の中で広がる肉じゃがの味が、幸せを運んでくれるみたい。自然と頬が緩む。
「…あ、あと一個あった」
「んー?」
「圭祐の作る肉じゃがが、世界で1番美味しい。」
これは特に、時系列とか考えずに作ってます。いつの話でしょうか…。