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202号室  作者: 紫雨
本編
4/16

04話 思わぬ来訪者

 今日一番の楽しみは、雑貨屋さんで買ってきた可愛い入浴剤で入るあったかいお風呂。




「―――ちょ、オマエ何入れたのコレ!?」

「え、何が?」

「風呂!水!変な色!」


 バスタオル一枚で、彼が部屋に駆け込んで来た。

 ここで「キャー」とか「やだー」とか言うような私だったら、こんなやつと一緒に住んでいないと思う。


 彼が騒いでいるモノは、きっと入浴剤のことだろう。さっき入れておいたのだ。

 まさかお風呂先越されるとは思っていなかったので、何も言ってなかった。だってコイツ、気付いたら服を脱いで風呂場にいたんだもん。


「入浴剤のこと?」

「……オレが入った後に入れろよそんなもん!」

「そんな嫌がんなくても…」

「苦手なんだよコレ。においとか、肌触りとか…」

「じゃあシャワーだけにすれば?」

「さみーだろ馬鹿!」

「アンタの今の格好のがよっぽど寒いって」



ピーンポーン


 その時チャイムが鳴った。こんな時間に誰だろうか。


「あらあら、その格好でお客さん迎えらんないよねー?」


 私はにやにやしながら、彼を見た。


「どーすんだよ風呂…」

「洗剤とか混ぜたら?中和されるかもよ」

「する訳ねぇだろ!」

「ホントにしないでよ?私の今日の楽しみが無くなる!」

「だったら言うな!」



 まだ駄々をこねる彼をバスルームに押し込んで、玄関に向かう。

 カチャリと鍵を解いてドアを開けた。


 ドアの向こう、そこに立っていたのは、ニット帽にサングラス、だけど服装はスーツって言う、ツッコミどころ満載な男の人。



「―――きゃあ!?」


 誰、と思う前に、私は玄関の床に押し倒されていた。

 そして次の瞬間、私の視界にバラの花束が広がった。


「え―――………?」

「ああああのっ、僕っ、あああああなたが……っ」

「皆実!?」



 顔を真っ赤にさせて(といってもサングラスおまけにマスクでよく見えないが)、男が息を吸い込んだのと同時に、騒ぎを聞き付けたのだろう、バスタオル一枚で圭祐が再び登場した。



「―――って、テメエ何してやがんだ!」


 私が男に押し倒されている状況を見て、一瞬で彼は表情を変えて私を男から引き離し、男の胸倉を掴んだ。バスタオル一枚で。


 とりあえず解放された私はゆっくりと起き上がって、彼の変化にびっくりしながらも、頭の中にぼんやり浮かんだ顔達を思い出す。なんかこの人、見たことあるんだよね…。



「ぼ、ぼぼ僕はただ…っ!皆実さんに……っ!」

「てか誰だよテメエ」


「――あ、思い出した。」


 圭祐に胸倉を掴み上げられてガタガタと震えながらバンザイのポーズをする男と、バスタオル一枚の圭祐が、同時にこちらを見る。男のとれかかっていたサングラスが、床にカシャンと音を立てて床に落ちた。


「―――うん、やっぱり。あなた、お店に、来たことあります?」

「ははははいっ」

「何、客?」

「結構頻繁に、見たことあるような」

「あのっ、僕……皆実さんが…ずっと前からいいなって思ってて…っその…っ!」


 といって、圭祐から解放された男は、チラリと彼を見た。圭祐がギ、と睨み返したので、男はまた震え上がった。



「でもあのっごめんなさい!一緒に住んでるなら…………っ、うわ――――ん!!」



 バラの花束を投げ捨てて、男は一目散に逃げていった。



「………」

「………」



 何だったんだ、と暗闇の向こうへ消えていく男を黙って見送った。






「―――っくしょ!」


 圭祐がくしゃみをした。

 そりゃあバスタオル一枚だもんね。



「あー、ごめん………ありがとね」



ず、と鼻水をすする彼に、私は謝って着ていた上着をかけた。


「お風呂…入ったら?」

「イイ。シャワー浴びる。…オマエもう絶対出なくていいから、インターホン」



 少し低い声で彼は言い残して、バスルームへ消えていった。

 それでもやっぱり入浴剤入りはダメらしい。頑固だ。

 

 

 

(…びっくりしたけど)

 怖くはなかった。怖いって思う前に、圭祐駆けつけてくれたし。なんていうか、見たことない表情とかにびっくりして、そっちに神経が行ってしまっていたようだ。

 だから怖くはなかったよ。

 

 

 

 

「ありがとね」


 ドアの奥にいる彼へ、そっと呟いた。





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