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202号室  作者: 紫雨
本編
3/16

03話 絶妙なバランス

 大通りより一本外れた道沿いにある、南フランスをイメージしたちょっとお洒落なレンガ造りのケーキ屋さん。此処が私、橋爪皆実のバイト先である。



「あれ?圭祐、何でいるの?」


 工場の中から、店内にいる予想外な人物が目に入って驚いた。


「オレもバイト長引いちゃってさ、なんか飯買って帰ろーぜ」

「そっか、お疲れ~。ちょっと待ってて、あとちょっとで上がりだから」

「了解―」



 片付けを終えて着替えようとした時、真井が隣に来た。


「皆実ミナミ、」

「ん?」

「今日あんたたちなんかあるの?」

「え?何もないと思うけど」

「あれ、そっか。なんだ。」

「どして?」

「ケーキ買ってってくれたから。なんかイベントとかあったかなって」

「ない、筈よ?ケーキ買ったの?アイツ。」

「……やっぱ、優しいねえ」

「何で?」

「さーね~」

「なにそれっ!」


 面白そうに笑う彼女の意図が、私は理解出来なかった。

 なんだかからかわれている気分で、悔しくなって彼女にタックルをお見舞いした。



 そして私はさっさと着替えを済ませて、裏口から駆け出した。

 お店のそばの街灯の下に立つ圭祐に向かって、走り出す。走ると言っても、爪先走りで音を出来る限り消して。

 そして鞄を大きく振りかぶった。


「けーすけっ!」


 バコン!と鞄は見事に彼の頭に命中。

 思いの外ヒットしたみたいで、声にならない叫びをしていた。


「~~~っ…、おま、何してんだ…!?」

「あっれ~、ごめん当たっちゃったあ?」

「ぜってぇワザとだろーが!」

「さ、さ、帰ろ。あの惣菜屋のポテトサラダが食べたいな♪」

「好きだなオマエあの店のポテトサラダ…」






    *  *







「ね、そういえば何でケーキ買ったの?」

「何、もう食いたい?」


 圭祐の買って来たケーキは、今は冷蔵庫の中。

 夕食が片付いて30分程経ったが、まだお腹はすいていない。もちろん彼もそうだろうから、少し驚いて聞いてきた。


「そうじゃなくて。どーゆう風のフキマワシ?って。何かイベントあったっけ?」

「あー、なんか、店ん中で待たせてもらうのに、なんか悪いじゃん」


 何だ、そういうことか。

 真井の言っていた“優しい”とはこのことだろうか。


「…珍しく気が利くんじゃない?」

「何ゆってんだ。オレは毎日毎日ヒトサマに気を遣って生きてるよ」

「うっそだあー!じゃあ私にも気を遣おうよ、便器は上げたら下げようよ」

「やだよ、めんどい」

「………ヒトサマに気を遣う圭祐君~?」





「家では、リラックスしてんだからさ、いーじゃん」



 彼はそう、呟いた。



(“家”―――。)


 此処を、家と呼ぶ。

 考えてみれば当たり前のことだけれど、なんだかくすぐったく、温かい気持ちになった。


 こんなに近い距離で暮らしている訳だから、お互いが常に気を遣っていたら、まいってしまうだろう。

 だからこうやって、適度に気を抜いて、リラックスできていることは素敵なことだ。そしてこんな風に出来るのはきっと、圭祐とだから。長年の絆から、暗黙の了解で、自然とお互いにバランスよく気遣うことができているのだと思う。


 だって圭祐は優しいから。無意識に、気付かないところでさりげなく。




 だから、こんな毎日が、楽しいんだ。







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