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202号室  作者: 紫雨
本編
1/16

01話 武仲圭祐と橋爪皆実

 ピンポンピンポンピンポーン

「ただいまー!」


 チャイムの音、連続三回。

 これは202号室の、ドアを開ける前の合図。









「ただいま、遅くなった!」

「お疲れー、ご飯すぐ食べる?」

「悪い、今日俺の当番だったのにな。食うよ」

「はーい」


 此処は、2Kのアパート202号室。住人は武仲圭祐(タケナカケイスケ)と、私、橋爪皆実(ハシヅメミナミ)

 当然、苗字も違うので兄弟というわけではない。



「ん、んまい。皆実上達したよな、料理」

「でっしょー?2日に1回作ってればねー」

「こりゃ助かる。最初はどうなることかと――」

「なんか言ったー?」

「…いんや、ごっそさん!」


 じと、と睨む私を見ないフリして、ぱちんと顔の前で彼は手を合わせた。

 それを見て私は皿を片付け、流しに運ぶ。腕捲くりをして、蛇口をひねった。


「あ、皿オレやるよ」

「いーよ、ご飯も私やったんだし。そのかわり、明日ご飯も皿もヨロシク」

「……へーい」


 1日交代の当番制度。夕飯作った人が、皿も洗う。皿洗いも自分がやるとなれば、なるべく皿を少なく効率良く使えるようにもなってくる。

 今日は本来当番であった圭祐から遅くなるとの通達を受け、私がご飯を作った。

 こんな感じで、なんだかんだ助け合って暮らしている私たち。


 ―――でも、どうして私たちが一緒に暮らしているかって?














「それって、同棲?」

「違うよ」

「……違うの?」

「うん」

「……じゃあ何?」

「――ルームシェア、かな」

「今時、そんなんあるんだねェ、男女で。……何もないの?」

「何が?」

「それ聞く~?」


 友人はまだ、アヤシイといった目で私を見る。

 世間では、付き合ってもいない男女が一つ屋根の下――って、珍しいらしくて。こんなやり取りも、実は初めてじゃなかったりする。


 学食で私はBランチを食べながら、向かいに座る友人の溜息を聞いた。


「でもいいなァ、なんかソレ」

「そ?」

「中々ないっしょ、そんな関係。そんな男友達欲しかったなァ……」


 今度は物分かりが良いヒトで助かった。今までの追及は、もっとしつこかったから。

 納得したような彼女の反応を見て、少し安心した。



「ね、どんな人?」

「どんな~………?」

「タメ?カッコイイ?血液型は?」

「タメ。大学おんなじだよ。学部違うけど……あ、アレアレ」


 噂をすればナントヤラ、ちょうど良いタイミングでランチを持って歩く、圭祐含む3人の集団が見えた。



「圭祐ー!」


 少し大きめの声で手を振りながら彼の名を呼んだ。向こうもすぐに気付いたようで、こちらに向かってくる。


「よ、皆実。大学で会うなんて久々じゃね?」

「だねー、今からお昼?」

「おう。あ、此処いい?」

「どうぞどうぞッ!」


 そう言って友人は、圭祐の目の前で、彼女の隣の席のイスをガタッと勢いよく出した。


「ん、初めて見る。皆実の友達?」

柳瀬杳(やなせはるか)です!やだァ、超カッコイイじゃん皆実ッ!」

「ははは。良かったね圭祐、カッコイイってよ」

「何、杳ちゃん超いい子じゃん~。じゃ遠慮無くお邪魔します」


 圭祐は杳の隣に、後の二人は圭祐の向かい、私の隣側に腰かけた。

 杳を包むオーラが、変わったのが見えた。ぽう、と圭祐に見惚れているようだ。




「そうだ皆実。卵ってまだあるっけ?」

「あ、私昨日全部使っちゃった。使うなら買って来てもいいけど、明日近所のスーパー特売日で安いと思う。」

「おーまじか。わかった。今日は無しでいこうかな。」


 私たちの会話を聞いて、圭祐の友人二人が楽しそうに突っ込んでくる。


「なーんか、夫婦みたいな会話だね」

「何、おまえら同棲してんのっ?」


「一緒には住んでるけど、そゆんじゃねぇよ」


 別段焦る様子も見せず、圭祐はサラリと否定した。

 もちろんその通りなので、私も何も言わずにただ頷いた。

 この生活になる前でも、仲の良さからしょっちゅうからかわれてきた私たちにとって、こういう類のからかいじみたものには慣れっこだったりして。


「じゃあどォして、一緒に住むことになったのォー?」



 杳が、身を乗り出して尋ねてきた。

 明らかに口調が変わっている。さっきはあまり興味を示していなかったのに。


「最初はお互い一人暮らしだったんだけどね」

「家賃安さにボロアパートでさ。飯とかめんどくさくなったりして、隣同士だったから」

「私が圭祐んちでご飯食べたり」

「オレがコイツんちでTV観たりしてたら、な?」

「うん、だったら二人でもーちょいリッチなアパート住んで、家賃分割すれば、安いじゃないか、と。」

「まあ、そんな感じ?」

「だね」



 話し終わった私たちを見て、彼らはへぇ~と感心している様子だった。


「確かに、一人暮らしって光熱費とかもったいないよな。」

「冬とかも、一人とか絶対寒そう」

「だろ?あ、おまえらは実家だもんなー」



 しみじみと、彼等は言った。私もそれには頷けた。

 部屋に人がひとり居るのと居ないのとでは、室温に大きな違いを感じる。





「仲良しなんだねェ」

「まあ、悪くはないね」

「うん」


 羨ましそうに杳が言うのを、私たちは顔を見合わせて答えた。









 私たちがどうして一緒に暮らしているかって?―――つまりはそういうこと。

 幼なじみで、同じ大学へ通う私たちが、友達よりもうんと近付いたこの距離で、親友として生活しているという――、


 これは、そんな物語。





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