2.問題児三人組
校長マジで怖い。
「あらあら困ったちゃんねえふふふふふふふふふふ」とか言いながら迫ってくる。マントが羽みたいに広がってて超怖かったです。
「ババアは棺でおねんねしてな!」
暴言を吐いて、アルメリアは瓶をブン投げる。途端に爆発するが、煙の中から真っ直ぐ追いかけてくる校長には効かない。つーか、
「ケケケケケケケケケケケケ!!クソ生意気なガキ共!!罰則じゃああああああ!!!」
あの温和そうな顔がああああああ!!!何で口裂け女みたいにエライことになってんの!?
しかもアルメリアまでノリ気だ。ヒャッハーしてます。どんどん投げられる危険物。
(に、日本に帰りたい……!)
遠い故郷でイチャイチャしてるんだろう両親に思いを馳せると、爆風で吹き飛ばされアルメリアの下敷きになった。
もうこれ生徒を指導する教員の、そのトップがしちゃいけないと思うんだけども、校長はケタケタ笑いながら生徒に口ビームを吐きました。校長は本当に人間なのか誰か教えろください。
「く、くっそ……流石はアン大叔母様……!」
「え、親戚なの!?」
「親戚だから授業サボっても大目に見てもらっていたんだ」
ぺっ、と血を吐き捨てた。……アルメリアさんマジで男前。
「だがトヨトミ君、安心するがいい、アレはまだレベル3。私が昔、大叔母様の爽やかな朝をぶっ壊したときと同じだからね。攻略は簡単だ」
「トヨトミじゃねーし攻略って何!?お前は何をやらかしてあんな化け物降臨させたの!?」
「!―――避けろ!」
あべし、と俺はロッカーに体を突っ込んだ。
咳き込んで体を起こすと、校長は首を360°回転させてビームしつつアルメリアと殴り合い……もうあいつら魔法使い名乗るなよ!!
「ヒャァーッハッハッハッハ!!!死に損ないがああああああああ!」
一体何が校長にスイッチを入れたんだ―――痛い!?
「な、なん……ん?」
小石か何か頭に当たって振り返ったら、この惨状に逃げ惑う悪ガキの姿が見えた。
それと同時に、「あぐっ!?」と攻撃を喰らったらしいアルメリアの声が聞こえて、俺はちょうど破損したロッカーから飛び出していたモップを掴み、
「く、くたばりゃあああああああああああああ!!!」
振りかぶり、避けた校長に切っ先を変えて今度は突く。十ほど突くも、校長は「お昼のデザートよりも甘いわああああああああああああ!!」と叫んでモップの先を歯で破壊し、俺に迫る―――が、アルメリアに足を押さえられ動きが一瞬止まる。
俺は渾身の力で、野球のスイングのように横腹に打ち込むと、校長は空中でぐるんと回転した。「べしゃあ」と落下する校長の向こうで、女の子の悲鳴(多分逃げずに高みの見物しようとしたんだな)に気付くと、校長はまたもケタケタと笑って追いかける。女生徒をな。
「アル、大丈夫か」
「ああ―――しかし君、すごいな!モップで戦う様はまさにラストサムライだったぞ!」
「そ、そりゃ、俺にも半分、日の本の血が流れてるからな!」
「今度あれやってみせてくれるかい?ハラキリ」
「ハラキリやったら死んじゃうじゃん!!―――ん?」
背後から、男の声。
ぎぎぎ、と振り向くと、髪の長い男が「やあ」と呑気に片手をあげた。
「ひfどgfdcvbhjklkjhgfdsxcfhんjkl;!!!」
「――やあジョナサン。また深夜徘徊か」
「なに、夜の闇は僕たちに奇奇怪怪なる指先でも見せてくれそうでね。止められないのさ」
「お、おま、………知り合い?」
壁にピッタリくっついてアルメリアに聞くと、「同い年でね」と頷く。
眼帯をしていて髪は長め、その中でも長い一房を結っている―――ローブは大きすぎて肩からずり落ちているが、着てる服は良いものだった。
「僕の名前は"ジョナサン・サン・ウィッチ"。授業を寝過ごし過ぎて留年したのさあ」
「うわああ……」
「彼は刺激的なものを好むのでね、中々に話が合ったものだ。今でも私の創作薬物に発想のスパイスを入れてくれる」
「入れんな!」
「魔法呪文学ではトップの身だから、サムライ君なら勉強見てあげるよ?」
「マジか」
「あの校長に格闘しようとするお馬鹿さんは、君とアルくらいだ。なかなか楽しませてもらったからね」
くひひ、と笑うジョナサン―――こ、これは、同性ボッチ脱却のチャンスか!?
「じょ、ジョナサン!」
「なんだい」
「ふ、フレンズになりませんか!!」
「いいよ」
あっさり……。
まあでもいいや、うん。昨日までの自分よりも遥かに進歩した気がするしね!
俺はジョナサンの手をぎゅっと握り、
「男同士でくっつくなホモ野郎!」
「いだいっ」
拗ねたアルメリアに殴られた。
*
ジョナサンとアルメリアが言うには、校長は結構キレやすい人らしい。
それでいて暴れ終わると「罰則だー」発言もどうでもよくなるそうだから、気にしなくてもいいとのこと。
「なあアル、お前何の本読みたいの?」
「脳みそについての本だ」
「の……うええええええええええ」
「へー、頭の中について知ったとして、今度はどんな毒薬を作るんだい」
「物を言えなくさせるのさ」
アルメリアは軽快にターンを踏むと、静かな廊下にブーツの音を響かせた。
踏ん反り替えって不敵に笑うと、俺の唇に指を当てる。
「そら、何かもごもごと言うよりも、急に行動されると動けなくなるだろう?私は呪文で相手に攻撃内容を悟らせるよりも、急に投げられた薬によって口を痺れさせることこそが最強への近道だと思うのだよ!」
「…んん――でもあの校長レベルだと呪文を塞ぐも何もない気がするけどな」
「まあ、呪文を口にするやり方しか知らない、子供向けの護身道具だねえ」
「うーっ……じゃ、じゃあ、薬を浴びると脳みそが微振動を繰り返すというのはどうだ!」
「何でそんな鬼畜な発想が出来るの!?」
「でも良い発想じゃないー?相手が突如痺れて反応が遅れた隙に……くっくっく。まあ、贅沢言えるなら浴びた瞬間心臓が止まるのなんてどうだろう」
「それでは甚振る楽しみが無い!」
「お前ら絶対将来犯罪者の仲間入りだよ!」
若干埃っぽい図書室に三人で忍び込むと、監視役の蛍(に見えるけど…?)が辺りをうろついている。
お目当ての脳みそ―――持ち出し厳禁図書の所に固まって陣取っているのを見て、俺はアルメリアの袖を引っ張った。
「どうすんだよ、アレ」
「………ジョナサン!」
「ふーん、まあ、さっき面白いの見たしね……」
する、とジョナサンはずり落ち気味のローブからステッキのような物を引っ張り出す。
どこまでも白いそれは手触り良さそうで、「材料は何?」と無邪気に尋ねた。
「ユニコーンの骨と角で出来ているのさ…くっく、これを引きずり出した時の魂の叫びは忘れられないねえ……」
「ひいっ」
「おいおい、密猟しただなんて言って世間様にバレたらどうするよ?」
そういえば、よくよく見れば持ち手の部分が真珠よりも美しく鋭いような……目潰しに丁度よさそうなステッキだ。
ジョナサンは「くっくっく」と笑うとステッキを死神の鎌のように振り上げ、打ち下ろす―――その尖った先端は、魔方陣を叩いて波紋を広げる。
「Er stoppt, wenn――――お勤めご苦労さん」
その言葉と同時に蛍はボトボトと床に落ちる。
魔法呪文学が得意とはよく言ったもんだ。これは上級生が習う魔法だろ。
「さてさて……オダ君!ジョナサン!脳みそを探せ!」
「オダじゃねーし嫌な良い方すんな!」
「ハラキリ君は子犬みたいに噛みつくねえ…くっくっく!」
「ひい!?近づくな!」
飛び退くと、ぐちゃっと感触。
三人同時に俺の靴を見て、俺は嫌々ながら足を上げた―――ねっとりと糸を引く虫の死骸たち。
「う、あ。あ……きゃあああああああああああああああああああ!!!」
図書館に、俺の高い悲鳴が響いた。
*
ジョナサンのキャラが掴めないです…。
キャラ説明:
*右衛門佐 夕霧
・ピカピカの一年生で日本人。
アウトドア苦手で手先は器用。しかし魔法薬物実験学は苦手。グロいから。
真面目で制服はちゃんと着る。切実に友達が欲しいらしい。
父が格闘技好きだったので影響を少し受けている。
*アルメリア・ブランシェ
・一回留年していまだに一年生。
ピンクの髪に赤茶の目。制服とか着てない。あちこちに薬物を隠し持つ危険人物。
男前で口調は不思議。校長の親戚さんだが校長との仲は微妙かもしれない。
魔法薬物実験学でトップ。しかしそれ以外の科目は平均かそれ以下。実は高所恐怖症でもある。
いつか魔法よりも魔法薬が最強であると知らしめるのが夢。
*ジョナサン・サン・ウィッチ
・実は坊ちゃん。一回留年して一年生。
眼帯してて髪は長め。その中でも長い一房を結っている。ローブは大きすぎてずり落ちているが、ローブ下の服は質の良いもの。
ブラックジョーク好きで奇妙奇天烈なものが好き。刺激的なものが好きなので魔法呪文学が大好き。闇でも光でも得意だけど闇魔法が好き。
ステッキで魔法を行う。ユニコーンの骨と角を使ったものらしい……。




