1.ボッチなのは個性です
やあみんな!魔法学校の生徒だよ!
日本と外人のハーフだけど「あいきゃんとすぴーくんぐりっしゅ」だよ☆本当は普通の学校に通うはずだったのに外国の学校に投げ入れられたよ!
日本の魔法学校は少子化で閉めちゃったんだってさHAHAHA☆
今では「ジャップ」と指差されながら教室の隅でPSPしてるよ!ははっ、楽しいね!!
「またですか、Mr.ヨモサ」
「……す、すんません…」
―――なんて、ボッチの俺、右衛門佐 夕霧はこうしてハイにでもならないと学生生活をやっていけない。
クラスの誰かと二組になれよって言われたのに組めない俺に先生は溜息を吐く。ごめん、本当にごめんなさい。
何とも言えない眼差しの先生はとっても気を使った口調で、「そろそろ期限なのでしょう?」と言う。
期限―――俺が英語まったく駄目だと校長先生に泣いて訴えたら、流石に授業は支障が出ないようにと先生の言葉は理解できる魔法をかけられた。
でもそれも期限付き。学べよ、英語。ってことです。
「いい加減、あなたも言葉――いえ、友人の一人でも作りなさい」
ベルが鳴り終わり教室を出る俺の背を、先生はぽんと叩いてくれた。
それが余計に虚しくさせる――窓から見える灰色の空を見てると特に。
もうこのまま誰もいないところへ逃げたかったけれど、ちょっと苦手な魔法薬物実験学の授業をサボりたかったけれど、……成績悪い教科にそんなことできるかって話だ。
この授業でも組む人いねーや、と思っていると、くいっとローブを引っ張られ、
「やっ!」
しゃがんでこそこそとやって来た桃色の髪の女生徒は、同じ青寮の生徒だった。
どう見ても遅刻しましたな女生徒だけど、俺は嬉しかった。は、話しかけてもらった……!
「dfghjこぽいうytrガーrdsxcvbんm、l;」
―――が、喜ぶ暇もない。女生徒の言ってる言葉が未知の言葉に聞こえる。……なに?ガール?ガールが何?
「あ、あいきゃんとすぴーく、いんぐりっしゅ!」
口の前で指を×印に交差させて言うと、女生徒は、「おっ、そういうことならオッケーオッケー」みたいなアメリカンでいて無駄な振り付きで何か言う。
そして鞄から"unexamined《未審査》"のラベルがされたぷるんぷるんの何かを振る。いや、振らないで何それ。
「Doraemo!Dora!」
「え、ドラ●もん?真似しろってこと?」
「Doraemo!」
「ちがう?ちがうの?どうすればいいのよ!?」
「くちあけて」
「日本語喋れるんじゃん!?」
指摘すると、女生徒は問答無用で俺の口に指突っ込んだ。
感触はそう、蒟…畑。だいたいそんな感じです。でも味は何故かヨモギでした。ピンキーな蒟…畑なのに。
「うええええええええええええ!!!」
「吐くんじゃねーよチェリーボーイ」
「口悪っ!?」
「ごっくんした?どう?微熱とか意識が朦朧とするとかしないかね?」
「しないけど喉が気持ち悪い……ってなんで言葉が!?」
「ふふん!このアルメリア様に作れぬ物は無い!!…日本のアニメからインスピレーションを受けましたっ」
「はあ?………あ、パクッたのか?」
「パクってないですぅー。ほら、蒟蒻じゃないでしょー」
いや、ドラさんの蒟蒻とは違うけどこれ蒟蒻…―――いや、それは置いておこう。
―――…この女生徒、アルメリアっていうのか……。
制服着てないっつーかローブの代わりに白衣を着てるし、いろいろ洒落た?人だからただの馬鹿かと思ってたけど、この自作(?)翻訳スライムを作れるくらいには頭良いんだな。
まあとにかく、ぼっち歴の長い俺は「もうこの際女子でいい!!いや、有難いです!!」とばかりに目を輝かせて「ありがとう!」と手を―――握る勇気はないんできっちり自分の体にくっつけて九十度の深い礼をしました。
「おー…日本人は頭下げるのが好きって聞いたけど本当なのか」
「いや、好きじゃないです」
「君の名前は――あー、タロウだったか?タロウ・ミモザだったろう」
「夕霧・右衛門佐です!!」
「知ってる知ってる。あれだよね、あー、ゲイシャとフジサンの息子でしょ?」
「違う上に片方は人間ですらない!!」
「しかし夕霧かー…源氏物語にそんな名前があったな」
「源氏物語は分かるくせに何なのその滅茶苦茶な知識!?」
久々の会話が楽しめないでいると、女生徒は俺の肩をポンポンと叩き、八重歯を見せて笑った。
「私の名前はアルメリア・ブランシェ。一年留年した身だけれど畏まらずにその調子でよろしくサムライ」
「あ、どうも……留年!?」
「いや、実は体が弱くてね。途中で入院していたもんだから」
「そ、そうなんだ……」
「親しい人は"アル"と呼ぶ。アメ公と呼んだら殺す。いいかね」
「はあ、アルね、アル……俺は、」
「ニンジャでいい?」
「夕霧でお願いします」
この……人を馬鹿にしやがって!
そう思って膨れ面でいると、アルメリアの背後に黒い影があった。
「あっ」
アルメリアも気付いたけど、その頃には俺とアルメリアの頭は教授(魔法薬物作るとは思えないほどのマッチョ)の手で潰されそうになっていた。
*
「アル」
「なんざんしょ」
罰則を言い渡されて解放されたが、もう昼飯食ってる時間すらない。
調子の掴めないこいつはカ●リーメイト齧りながら振り返り、欠片が俺のローブに付いた。
「お前、さっき飲ませたヤツって……」
「ふむ、トクガワ君が今日のうちに下痢でトイレに籠らなければ二日三日は持つはずだがね」
「右衛門佐だ。…あの、その、」
「あ、」
「よかったら作り方教え「金貨三枚」……え?」
「今回はサービスだがね、あれは材料のほとんどを実験室からパクった奴だから入手が難しいのだよ」
「でも元手タダじゃん!?」
「ハイリスクを犯す報酬に金貨三枚はぴったんこたんたんだろう?」
「かんかんだろ…ってそうじゃなくて!」
「まあしかしぃー?君が材料を用意できるならば銀貨4枚で我慢しょうじゃないか」
「そ、そんな……!そんなこと……!」
――――しました。
今?夜中です。学生は出歩いちゃいけない時間です。
こ、これがバレたら俺どうなっちゃうんだろ……で、でも頑張らないと。
「やあ、ニンジャは良好かい?」
「ニンジャは良好かいってどんな意味!?―――って、」
「アルメリア様だがね」
「な、なんで……!あ、もしかして俺の為n」
「図書館で読みたい本があって」
「」
「……ま、ついでだ。いくら私でも友人を見捨てるのは心苦しい」
「あ、アルぅぅぅぅぅ!!!」
守銭奴とか外人さんは冷たいとか思ってごめん!!
うっ、し、しかも友人って…!友人って……!!アルメリア、お前はなんて良いヤツなんだ!
「アル!よ、よろしくな!」
「おうとも。次に目指すは親友といこうじゃないか」
「ああ!俺たち、異性だけど親友でいられるよな!」
「―――まあ、おっほっほっほ、青春してますわねえ、」
お互いの「親友」の違いに気付く前に、まさかの婆さん校長の登場。
俺たちは全力で逃げ出した。
*
連載続くかな←