1。契約の始まり
この世は辛き事ばかりこの街はラファエル。その昔、天使ラファエルが舞い降りた事からこの名が使われた。
この街の人間は皆、神を崇める、常に十字架を持ち祈りを捧げる事から一日が始まる。
神こそ全て辛くとも悲しくても必ず神が救ってくれると信じて。
この街の中心にある大聖堂には沢山のシスターと神父がいた、そしてこの大聖堂に身を投じ神に全てを捧げた一人の少女。これから起こる、血で染まる恋の物語の主人公である、名はフェリス…歳は17歳。
腰の辺りまで伸びた金色の髪、海の碧を映したような碧い瞳に白き肌。見る者全てがため息を漏らし見惚れる程の美しさ。
『フェリス、フェリス。こちらにいらしゃったのですか?』
私は真紅の絨毯に両膝を付き両腕を胸の辺りで指先を組み双眼を綴じ一心に神の化身として飾られた大きな十字架に向かい祈りを捧げる。
ようやく見附と深い息を吐き黒き法衣を纏ったこの大聖堂の総神父、リウス。
若干19歳のその姿は灰色の髪を襟元まで伸ばし碧緑色の瞳には静寂を湛えるかのよう。
リウス牧師の声に私は双眼をゆっくり開き右手を絨毯に付きその右手と右膝を支えに左足から立ち上がると体ごと振り向き見知る人物に微笑む。
「おはようございます、リウス牧師。私に何か?」
『街の様子を見に行こうと思うのですが貴方も如何です?貴方は勘が鋭い、僕の気付かない事も貴方なら見抜くかも知れません。』
リウス牧師は私がこの大聖堂に来た頃から教え導いて来て下さった方
周りから見ればそれは仲のい恋人同士のように言われますがこ私に恋慕の情はありません。
「はい、是非。」
私は兄のようにリウス牧師を慕っています、優しくそして時に厳しく自分を導いてくれるリウス牧師は家族の居ない私にとっては家族のように大切な人でした。
『では、行きましょうか?』
リウス牧師は左手に聖書を持ち右手を私の目の前に差しだし優しい笑顔をむける、私がリウス牧師の右手に左手を乗せるとしっかり握り開いてある大聖堂の扉から街へと足を踏み出しました。
街は先に来る冬将軍の気配を感じながら草木を紅や黄に染め冷たい風が流れ始めていました、リウス牧師は私の肩にそっとブランケットを掛け自身は厚手のローブを纏い病床に伏せる老人の家々を周りました。
私達の仕事は病床に伏せる方の家への訪問や食事の配布、ミサ等決して派手なものではありませんがやりがいのある仕事でした。
一軒の家の前に立ちリウス牧師は左手の甲で数回ドアをノックするとその家の女主人の手でドアは開かれ女主人は私達を見ると笑み会釈をし招き入れてくれるとキッチンへと消え私達はその足でベットに横になる老婆の元へ近付きリウス牧師は椅子に腰掛け話始めました。
私は隣でその様子を見ていると聞いた事のないような低い声が背中越しに聞こえ振り向くと其処には紅い髪に漆黒の翼、金色の瞳に薄い唇からは牙のようなモノが見え明らかに人間ではない彼が立っていました。
『助けてやろうか?その婆さん。お前、俺の姿が見えるんだろ?助けてやろうか?もうすぐ死ぬぜ?そいつ』
口端をあげ白い牙を見せた彼は私との距離を詰め低い声で囁きます、彼の言う通り彼の姿は私にしか見えていないようでリウス牧師も女主人も老婆も気付く様子もなく楽しそうに会話をしていました。
「本当に…助けてくれるの?」
『お前が俺と契約すれば助けてやる、何、命は取らない』
私と彼の周りだけ黒い霧に包まれ世界は見る間に暗黒に染まり彼は右腕を私の頬に伸ばし右手で撫でるとその漆黒の翼で私を包み込む
「契約…どうすれば」
『簡単、お前が俺に抱かれればいい…。簡単だろ?』
金色の瞳が私を見据え吸い込まれそうになるのを私は頭を左右に振り拒み睨みつける、けれど私が契約すれば老婆は助かる。甘い誘惑と暗闇が私の思考を鈍らせる。
『…お前を抱く度にお前の望みを叶える。』彼の私の頬を撫でるひんやりとした指先が彼のその言葉に上気した頬の熱を吸いそうな感覚に襲われる。
「…裏切らないとは限らない」
そう、悪魔との契約だ。彼が真実を言ってるとは限らない、私は彼の右手から逃れるように両腕を伸ばし彼の体と距離を取る、
彼は私の仕草をもろともせず言葉を続ける。
『じゃあ、あの婆さんは死ぬな…交渉決裂。じゃあな』
死という言葉は何より私を突き動かした、私は背を向けた彼の服を腕を伸ばし掴む。
「待って…契約する。だから」
『俺の名前はシン。お前はフェリスだろ?精々楽しませてもらうぜ?』
シンと名乗る彼は掴む私の腕を右手で掴み引き寄せ唇に熱を移す、初めて奪われた唇。唇は強引に割られ一気にシンの紅い舌が私の口内にねじこまれる、堕とされる…神様、この身を汚すことをお許し下さい。