100パーセントの脳
人間の脳と言うのは、普段は10パーセント程度しか使われていないそうだ。
そのことを知ったのは、父親が定期購読していた科学雑誌だ。
そこには、さらに続けて、それを100パーセントにすることができるという方法も紹介されていた。
その方法は、今でも明確に思い出すことができる。
だけど、それをする前に、恐ろしい事件が起きた。
今から15年前、脳の空き容量をすべて使用するとどうなるのかという実験が行われた。
その結果は、誰一人として知らない。
その実験自体は行われていたのは間違いのだが、その研究所が、文字通り消滅してしまったからだ。
その消滅の仕方は、底から超巨大なショベルカーで掘り出してしまったかのよう感じで、残ったのは、すり鉢状の研究所の敷地よりも大きな穴だった。
それから、その研究は、法的に禁止された。
だが、そうされると、したくなるのが人間の性というものだろう。
自分は、その研究をひそかに続けた。
脳を100パーセントの使用率にするのは危険だということは、その実験によって証明されていたので、自分が目指したのは、とりあえず50パーセントだった。
金がないので、整備から実験の後始末まですべて一人でするしかなかった。
やり方は、あの時読んだままの方法で行っている。
つまり、脳に磁石を近づけることによって、電流を生じさせ、その電流がニューロンを刺激し、飛躍的に脳を活性化させるということだ。
この時使った磁石は、人により、また使用率の目標に従って変化するが、50パーセントだと、数十テスラ程度は必要だった。
そこまで強力でないと、脳に行き渡らせるだけの電流を生じさせることはできなかった。
ICレコーダーをつけて、これからのことを口述筆記してもらう。
この記録は、後になって自分自身が実験のあらましを書くに必要な、1次資料となる。
「本日、3001年4月1日、1回目の実験を始める。実験主および被験者は、いつも通り自分自身。では、これよりスイッチを入れる」
手元に置いてあるスイッチをオンの方向へ傾ける。
すぐに頭のそばの電磁石が唸りを挙げて磁界を形成する。
頭が、血流がそちらへ引き寄せられそうになるが、椅子に体を縛っているため、動くことはできない。
唯一動くスイッチを入れた右手だけが、すぐに電磁石のほうへと引っ張られていく。
スイッチは、10分経過すると自動的に切れるようにしているため、意識がなくなったとしても問題はない。
「第2段階」
やっと声を出すと、一気に磁界は強まった。
目の前がかすみだし、意識すらとぎれとぎれになる。
その時、目の前で火花が散ったようにバッと明るくなった。
初めての経験だ。
「火の玉…違う、太陽だ。まぶしい…」
自分の意識は、いったんここで途切れる。
そして、30分ほどして、目が覚めてから、ICレコーダーを再生する。
鉛の箱の中に入れた上に、その箱を水槽に浮かべているため、理論上、電界はICレコーダーの中には微弱になっているはずだ。
再生すると、なぜか数分間は無音だった。
そして、突然、知らない声が聞こえてきた。
『計画は達成された。神の計画は、これで満たされる』
それだけで、あとは沈黙が続いた。
「…神の計画?」
自分には何のことか、まったくわからなかった。