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クラッド  作者: 僕。
第一章 ゲルド盗賊篇
4/15

第4話 氷河に現れた異人

一流魔剣士って程じゃないさ。ただの老いぼれ。

レイザス

1

 朝日がやけに眩しい。

 ここは異世界のとある町の長屋。照りつける朝日は長屋の中にもやわらかな光をもたらしている。

「あっさでっすよー!」

「長屋の皆さんー、起きてー!」

 少女の声が長屋中に響く、元気で無邪気な声だ。

「レイザスー!起きてー!」

 階段を駆け上がりながら住民を起こしにくる。レイザスと呼ばれた男は元気な少女に寝ぼけながら返事を返す。

「あはよう、ったくうるせぇなぁ」

「うるさいとかじゃなくて今日は仕事ですよー」

「眠い」

「寝ぼけないでよ!!」

 昨日は夜遅くまで魔法の調合に勤しんでいたというのに気の早い娘だなぁ。仕事は正午だというのに。

 頭をかきながらのんびりと顔を洗っていると。

「あざーーすっ!!」

 と勢いよくドアが開く。そのドアがレイザスに勢いよく激突した。

「痛いっ!!」

 吹っ飛んだ。その姿を見たドアを開けた少女は慌てて謝った。

「あわわ、ごめんなさい!ごめんなさい!」

「いてて。まったく老体にはちときついわ」

「老体ってまだ四十の中年だよね。レイザス」

 腰を擦りながら起き上がるレイザスに、少女は持ってきた朝食をテーブルの上に置きつつイスに腰掛ける。

「仕事はどれにするの?」

「ああ、もう決めておいた。北のゲルイル氷河の調査、危険生物の討伐、ランク三のお仕事の割りにゃあ高額だ。」

「いいねっ!!あたしも行く!」

「おまえも来るか?ソフィ」

 レイザスは彼女の同行に否定しなかった。このか細い腕でも実力派なのだ。魔法は使えないがガンナーとしての技術には優れているのだ。魔法剣士であるレイザスには心強かった、魔法での遠距離攻撃は出来るが詠唱で数秒掛かるためガンナーの手が必要なのだ。

 実力派はレイザスも一緒だ。数十年前起こった戦争で活躍した戦士の中にレイザスがいたのだ。戦争を起こした魔王を倒したのもレイザス達だった。

 その後は開拓ギルドに所属し、安穏とした生活を送っていた。仕事を引き受け護衛だの調査だの生物討伐とか様々な依頼を引き受け報酬で手に入れた金で暮らしてきた。

「今日もいっちょいくかぁ。」

「うん!」

 ソフィは元気のいい返事をして腰にボウガンと弓を挿した。


2

 ギルドで仕事を引き受け、馬車で北の氷河を目指す。三日程で目的地に到達した。

 仕事を淡々と済ませ帰りの準備をしている所だった。

 辺りには広大な氷が河を流れていた。にしてもここはとても寒くこの環境に耐えられる生物はあまり居なかった。だからか依頼も簡単だった。

 荷物をまとめていたレイザスがソフィに声をかけるが反応しなかった。様子がおかしい。

「どうした?ソフィ?」

「頭が.....いた...い...」

 頭を抱えながら痛いと言うソフィはやがて氷河の一番大きな氷塊を目指して突然走り出した。

「ちょ、うおい!!何処へ行く!!ソフィ!!」

 やはり様子がおかしい、何度か呼ぶが、見向きもせず氷塊に向かうソフィの後を追っていく。

「ソフィ!ソフィ!くそっ!」

 そういえばソフィの足はとても速かった。彼女の背中を追い続けていると。なぜか突然足を止めた。

 氷塊のすぐそばに立ち尽くしている。やっと追いついたレイザスはここの危険性に気付いた。

「しまった!!!」

「ソフィ!!!逃げろ!!」

 氷塊の辺りを白い大気が渦巻き始める。

 光が氷塊に集まってくる。やがてこの辺りを大地震が襲った。

 地響きが、ありえない程強くなっていた。

「ソフィッ!!!!!!」

 不意に、突然ソフィが意識を取り戻した。

「何、コレ...」

「逃げろ!!!ソフィィィ!!!!」

 その声は轟音にかき消された。

 超巨大な氷塊が一瞬で大爆発した。それだけでなく爆発した氷塊の水が津波の様に襲いかかってくるのだ

「え?」

 レイザスは魔法を唱え、ソフィを突き飛ばし安全な所へ避難させた。そしてレイザスは自分に結界魔法を唱えた後、大洪水の中に完全に呑まれた。


 しばらくして、結界を解いたレイザスが氷塊があった所に、人が倒れているのを確認した。


3

 ギンは暗闇の中、目を覚ました。

 たしか、クラッドの中の大渦に飲み込まれた後.......そこから意識が途切れていた。冷多に出会ってから何度も意識を失っている気がする。

 途端に少女の声が聞こえた。

「レイザスさん、生きてるよ!」

 誰だコイツ等、と目を開くと人間が自分を覗き込んでいた。まず思ったのが服装がこの世界の物ではない事だ。

 ここは異世界か?

 さっきから、じーっと色んな人の見物にされている。

 とにかく分かる事はここは異世界、そしてとにかく


 ヤバイという事


 異世界に着いたという安堵で無く、危機感しか感じなかった。本当に着いているのかさえ、判らない。

 覗き込んでくるのは見た事も無い様な人種達だった。耳が長い人や鼻の高い人、髪や服装など、しかも明らかになぜかガンを飛ばしている男数名。

「おお、生きてたか」

 と男が一人近寄ってくる。

 髪は緑色、目に掛かるくらいの長さでその瞳はこの男のおおらかな性格が表されているようだ。

 腰に剣を挿しており、白と黒の混じったローブを着用している。節々に金の装飾品が着いていた。

「俺はレイザス・ヴァルシスタ、レイザスと呼んでくれ」

 よろしく、と無邪気に笑う。しわの様な物があるため見た所、中年男性のようだ。

 さ、出てった出てった。と野次馬どもを追い返し、レイザスはギンに問いた。

「お前さん、何処から来た?」

「............」

 答えられなかった。

「言語が通じないのか?」

 ギンは驚いていたのだ、なぜこの日本人とは離れた外見の男が日本語を話すのか。たっぷり迷ったあげくギンは口を開いた。

「いや...通じます」

「じゃあ、あんたはどっからきた?まるで空間転移魔法を使ってきたかの様だったぞ」


 仕方が無くギンは今までの経緯と自分の名を言った。


「フム、確かに嘘を言っているようには見えんな。よし」

 レイザスは地図を取り出すと。ギンをテーブルの椅子に座らせ地図を開いた。勿論ギンの知っている地図とはまったく違う地図だった。

「ここはデュルト大陸のジルの街だ」

 西側の大陸の端の大きな街ジル、そしてここは開拓ギルドの医療室。ギルドの酒場はドアの向こう側にあるらしい。どうりで騒がしい喧噪がする訳だ。

「仕事中に氷河に転移してきたお前を拾ったんだ」

「ところで....人を捜してるんだったな....」

 と、何やら考えだした。

 結論に至ったようでレイザスはこう切り出した。

「とりあえず此処で働いてみたらどうだ?金を稼ぐにはちょうどいいし出先で捜せるし...どうだ?」


 なんでだろうか、その言葉に、同意した。


「ああ、そうする」

 彼の顔がぱぁっと明るくなった。

「おお本当か!」

「じゃあ...登録は明日にしといて今日は宿を手配しとくからゆっくりしてってくれ」

 今日は疲れただろう、とレイザスは宿を手配してくれた。

 話は急だが、この人のやさしさがとてもうれしかった。

 

 とりあえず、異世界での一夜目はぐっすり眠れるだろう。


 レイザスはギンを宿に送った後、呟いた。

「しかし宮内か.....聞いた事ある名前だ。まさかあいつじゃないよな」

 っと、独り言はいけないな、元気な嬢さんに怒られちまう。頭をポリポリとかくレイザスだった。



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