第3話 クラッド始動
ボクは護れへんかった、あの時も今も…
冷多
登場人物紹介
主人公
宮内 吟 エリート風の大学生、三年前彼女を亡くている
鈴木 尚 主人公の親友、今何処に居るのか分からなくなっている
知床 冷多 謎の研究員、ギンを異世界に送り届ける
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意識が戻ってくる。まず、椅子に座らせられていた事に気がついた。
「あれ?確か俺はあいつに…」
と視界を巡らせていると気がつけば目の前には冷多がいた。
「初めまして、知床冷多や」
「からかってんのかお前」
「分かってた?」
と冗談を交わすと冷多は満面の笑みを浮かべながら話した。しかもテンション高い。
「試験合格おめでとう!さて、お次はキミの後ろにあるあの機械の出番や!」
ギンの後ろには白衣を着た科学者が数名、そしてその後ろには途方もなく大きな機械の様なものがそびえていた。この前ギンが建てた高層ビルよりも巨大な機械だ。なぜか様々な部分にチューブが繫がれている。
「なんだ…これは…」
この巨大機械からはまるで呑み込まれる様な迫力を感じる。驚くギンに冷多は淡々と話す。
「こいつが、地球の最先端の技術を注ぎ込まれた。未完成の第三試作品兵器、その名もクラッドや。」
「…国は…世界は何してんだ?」
冷多は笑みを深める。
「キミはコイツに乗って異世界に転移するんや。…向こうの世界で確かめたい事があるんやろ?」
気を遣う冷多にギンは椅子から立ち上がり、自分の胸を叩いた。
「ああ」
とやりくりしていると、ギンのよく知っている者の声が聞こえた。どうやら二人の会話を立ち聞きしていたようだ。
「クラッド…これに乗る気だな…息子よ」
「あんた…何…で此処に!!」
ギンの目の前に現れた男はギンの父親である宮内実数多の世界企業を立ち上げ大成功した男でギンの憧れに近く今のギンを男手一つで育て上げた男だ。だが、ギンはこの男が嫌いだった。実はギンが生まれた時から殆ど構いもせず、関わりも持たなかった、ある日の授業参観も、オール5の成績表を見せた日も、褒める事も見向きもしなかった。だからギンも心の底から実を嫌ったのだ。
数秒間、いや、数分は経っただろう、静寂を切り裂いて実が笑った。
「フン…ギン、貴様の決心が本物ならば、審理の時は訪れるだろう」
「この兵器は世界を救う為の希望…クラッドは貴様を運ぶ船となる」
正直、決意を決めたギンは親父の話で肩がこっていた。職業柄なのかは分からないけど長かった。
「ギン、貴様に最後に言っておく」
貴様貴様と息子に向かって連発するか?!と思っていると、ポン、と優しく肩に手を置かれた。
「死ぬな」
その手から感じたのはさっきまで感じた威圧とは遠い、手のひらの温もりだった。その手を解き。
「死なねーよ」
と冷徹に返した。思えば、初めてだったかもしれない…
この温もりが。
「どした?」
と疑問系を放つ冷多に、
「KYが…」
と視界を邪魔する液体を拭いながら目をそらした。実はどこかに移動したようだ。
2
さっきから人の出入りが激しい。白衣の研究者達だ。白衣を纏った少女が通り過ぎるのを横目で見ていると、白衣を着た冷多が手を振りながら寄ってくる。助手の山本も一緒だ。
さっき居たクラッドの見えた部屋はメンテナンスルームで、今居るのはそこから出て少し歩いた所。エレベーターの前の広々としたティールームと書いてある部屋だ。科学者や研究者が疲れを癒す為のカフェがあった。ギンも何かを飲もうとしたがクラッドに乗る前は何か喰っちゃだめやでとかなんか色々な事を伝えられた。体温は必ず35度以上とか毛皮系とかモフモフ系の衣服や金属はダメだとか。特にヤバイのは
クラッド転移の失敗率67.4パーセント
恐っ!!アナタノクビトンデモホショウシマセン的な感じだ。関西弁野郎曰く「キミならダイジョーブや」とか言ってたな。
…………
「ギン君…クラッドの準備完全完了や、準備はええか?」
「ああ!」
少し苛立ちのこもった返事を返すと、冷多はエレビーターのスイッチを入れる。エレベーターのドアが開くと研究者達が数名出てきて冷多にクラッドの調子などを伝えていた。
クラッドは東京の地下数千キロメートル程に存在し、この兵器については世界でも極秘裏の管轄の者のみが知っている位らしい、クラッド発動に要する電力は日本から中国全域の電気を利用する為クラッド使用の際には大停電が様々な国々に起こるらしい。しかも転移時の瞬間の波動により大地震が起きたり磁場が乱れたりするかもしれないと推測されている。
そしてギンが行く異世界の情報は我々と同じ人が暮らしている。という事だけだった。
気がつけばギンはエレベーターを出ていた、着いたのだ、クラッドがある所へ。
ドアを出ると、鉄製の巨大な扉がありそこを開くとまた扉があった。その先に出ると途方もなく巨大な機械、クラッドがそびえていた。今度はメンテナンスルームから見たのとは違い真下からだった。槍の様な機械的な構造を持つ兵器、よりは転送機だ。
クラッドの真下にさっきまでの大扉とは違い、小さな入り口がある。
「なるほど、俺ぁ、あの中に入れば良いのか」
「そうや、ゆっくり入り口のドアが開くからじっとしとけや」
やがてメンテナンスの声と共にドアがゆっくりと開く。
耳をつんざく程の機械音が響きだす。
轟音の中、ギンは入り口を歩きながら呟いた。
「親父、冷多さん、鈴木、行ってくる。今行くからな、待ってろ。」
ソフィ
異世界に消えたという恋人の名を呟きながら、歩く、クラッドの中に入ると自動ドアが閉まる。
振り返らずギンはただ前だけを見て歩みを進めた。
進んでいくと振動がかなり強くなってくる、そして突き当たりまで進んだ。広くて、暗くてどこか神秘的な空間。
「すげぇ…」
いつの間にか振動は収まっていた。白い大気が周りを漂っていた。
それが色を変え竜巻のようにギンを中心に回転し始めた。
「うあああああああああああああああ!!!!!!!」
大渦がギンを飲み込もうとして寄ってくるのだ。
逃げ出そうとするが逃げ場が無くどうしようもなかった。ただ悲鳴を上げていた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
声が段々と小さくなり。
「ぉぉぉぉぉぉ……………………」
渦の中に消えた。
次回からは異世界篇ですっ!ここからが本番!頑張っちゃうのが本番!
また誤字脱字等が有りましたらコメントよろしくお願いします。