第14話 焦燥
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まるであれは、月明かりを浴びて輝く神のようだ。
あの瞳は、紅蓮のように逆巻く炎のようだった。
彼の爪は、大地を切り裂き巨木を倒し。
彼の咆哮は、群がる生物を吹き飛ばし。
そして月の輝きは、彼に天下無双の力を授けたという。
彼の体は、魔法など受け付けない、天下無双の獣であった。
彼が北の地から南下する事は、一度も無かった。
上級者であるレイザスでさえ、討ち損ねた相手。
ソラは、この獣を相手に手も足も出ず、戦線離脱したという。
そしてこの魔物を討伐した猛者は、数える程、しかもそのほとんどが何百年も前の話であり、現代で討伐できるものなど居ないのかもしれない。
その獣の姿を、レイザスは焼き付ける感情と共に、覚えていた。
「っふー」
ソラと別れ、仮説拠点に集合すると、出発者であるギルドメンバーと、案内人、その他いろいろな人々が集まっていた。
ほとんどの者がこれからの戦闘に戦意を燃やしている所である。
作戦についての行動命令を使者が大声で伝えている。
「やれやれ、こういうのは煙草が不味くなるな」
使者が紙をギルドメンバーに回していくのが見える。
その紙が自分の所に回ると。
「防衛班4班が俺等か」
防衛班は町周辺を守りつつ魔物を討伐するのが主な任らしい。
だが、それには町から数キロ離れた仮説拠点から出発し、魔物の包囲網を突破しなければ町にはたどり着けない、危険度の高い班だった。
「まぁ、討伐隊の前衛達の方がつらいといっちゃつらいんだが...お前達は先に行ってくれ...」
「あんたは?」
「ソラの様子が気になるんでな」
「いえ、それなら俺が」
「心配ないさ、クレア」
それでもと渋っているクレアを少女が止める。
「....信じよう。ソラを」
「だが...!!」
なぜこんなに必死なのか、レイザスは知っていた。
「安心しろ、アイツはもうあの時とは違うんだ。だろ?」
「わかってるが...!」
と、突然ビービーと連絡機が鳴る。
「...行くぞ」
ミレウは一瞥し、防衛班の乗り込む馬車に向かう。
「ちょ、オラ!ボサッとしてねぇでいくぞ!ギン!」
「お、おう」
ガイはギンの腕を強引に引っ張って馬車に投げ入れた。
「お、おいガイ!!何しやがる!痛いな!」
「よし、お前等もとっとと乗れよー!」
「てめっ!!シカトかよ!」
全員が乗り込み、騎手が馬を走らせる所で、レイザスが手を振っているのが見える。
馬車が消えた所で、一息つく。
「さて、ソラの所へ行くかね」
一瞥すると、仮説拠点の馬小屋から一頭借りて、馬を走らせた。
2
「街の南東の地点で馬車を降りて、徒歩で街を目指す」
揺れる机の上には、地図が広げてある。そこを全員が覗き込んでいた。
「その後町の南門周辺で戦闘、あと馬車も共に向かうから守りながらな」
「とりあえず門周辺の敵を一掃したら町に馬車を入れさせて、防衛班が合流するまで待機!ってことらしい」
「質問は?」
クレアが全員の顔を眺める。異論は無いようだ。
馬車の中を見渡すと皆武器の調整をしているようだった。レンは弓の弦を張り直している。だが、矢が見当たらない。
「レン」
「なんですか?ギンさん」
「弓を使ってるんだな」
「はい」
「矢が見当たらないんだが」
「矢ですか?あぁこれですよ」
右手を上げると、そこに矢が現れる。
「魔法...か」
ほ、ほんとになんでもできるんだな...。
「便利過ぎるな..俺も使えたらいいな」
「あー、無理ね」
レンの隣に座る少女、リョウが割って入ってくる。
「なぜ」
「素質が無い」
「素質が無い?」
「そう」
エ、エリートの俺に出来ない事がないだって!?
「エリートだがなんだが知らないけど、出来ないモノはできないのよ」
知らなかった。
「そんな事も知らないのね」
「今、心を読んだよな?しかも二回読んだな」
「フフ、読心術よ」
ここは一つ試してみるか...?。
「魔法なのか?」
「そ、魔法」
魔女め。
───ゴチン
グーが飛んできた。
「試さない事ね」
「.....君は、武器を持っていないようだけど...」
「魔導士よ」
「杖とか使わないのか?」
工房のレシピに魔導士用の杖があったのを見たことあるけど...。
「私は戦闘魔法は得意じゃないから杖はいらないの」
「魔法を使える人にもいろいろな種類がある、例えばレイザスはさまざまな魔法が扱える『オールマイティ』タイプの人と、主に詠唱魔法を得意とするミレウ、詠唱には時間がかかったりするけど効果は絶大。」
「クレアとレンは武器や防具を魔法空間にストックして好きなときに呼び出せる異空間魔法」
レンの手にまた矢が現れる。
「人によって保存出来る量は変わってきますよ、限界があるって言う事です」
そう言うと矢はスっと消えていった。
「私は回復や身体能力を強化する支援魔法、自分も強化出来るけど、パートナーがいた方がいい」
「へぇ」
「...あ、そろそろね」
森を抜けると平原が広がってくる、だがそこには
「魔物だ!しかも...」