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クラッド  作者: 僕。
第一章 ゲルド盗賊篇
11/15

第11話 逃走

何故、死ぬと解っていて生きる。生きる勇気が無いのなら生まれて来なければ良いんだ。


1

 ゲルド盗賊は、十八年前に六人の魔導士と一人の男が結成した少数派の盗賊だった。

 この盗賊達は、数年も経たないうちに闇世界では知られる程の盗賊となった。

 そして闇世界の中の同盟「ベルクス同盟」に入った。

 ベルクス同盟は闇世界の中でも軍事力の高い組織同士が争わない様に、闇世界の者同士が組んだ同盟である。

 同盟を組んだ組織は三つ、その中に入るのがギン達が戦っているゲルド盗賊だった。

 ゲルド盗賊は周りの組織とは目的が異なる組織で、何か質の違う悪行を成してきた盗賊だった。 魔導書のみを執拗に狙う集団で、今迄も様々な魔導書が盗まれていた。そもそも彼らは盗賊ではなかったらしく、ただ魔導書を盗むから、盗賊と云われてきたのだ。それも、希少な上級魔法のみを盗む。だが王国や政府はその内容を公表しなかった。

 城や街の魔導書を奪うときは必ず、意味も無くその街を攻め込んで焼き払ったり攻め落としたりと、意味深な行為をしてきていた。だが、焼き払った街から奴隷を拾ってきたのは今回が初だった。今迄は奴隷を解放してやるだけで、仲間にするのは本当に初めてだったのだ。

 だから、王国には彼らの目的が読めなかった。次々と魔導書を盗むのも、奴隷を解放するのも。


2

 今回ゲルド盗賊が盗んだこの禁呪書は、今までの犯行とは質が違う物だった。

 それに、これを取り返す依頼も、何故一般の開拓ギルドに回ってくるのか、考えてみればおかしい。

「臭うな...この事件は」

「...!!」

 イテテ、とゆっくりと立ち上がるレイザス。

「あんたは一体何をしようとしているんだ?」

 剣は構えず、穏やかな立ち振る舞いで、シリュウに問いかけるレイザス。だがその瞳に穏やかさは無い、鋭い警戒と、詮索の瞳。

「なぜ、ここまで盗みをしているんだ?」

「いや」

「なぜ、そこまで出来たんだ?」

 一瞬、シリュウの目の色が変わった気がする。

 その一瞬を見逃さなかったレイザス。そしてレイザスの中で疑いが確信に変わる。

「.......愚かだ...」

「?」

 俯いたままシリュウがブツブツと呟く。

「俺は闇に落ちた訳じゃない」

「なに?」

 そうだ、そうかもしれない。シリュウの魔法というのは、相手を縛り、戦意を喪失させる魔法。

 その効果はレイザスに現れていない。

「そのうち、お前達にも分かる筈だ。私がやっている事は、全て」

 

 平穏の為だ

 

 彼は元王宮守護団の座についていた男。

 その力は守護団のてっぺんにまで昇りついていた。まさに戦士の鏡。

 だがそれも、今は闇の力に堕ちている。

 しかし、その志は変わっていなかった。それでも歪んだ志に変わりはない。

「......」

 何も言葉が出なかった。レイザスの中で出た確信と、あまりにも違った。

「私は、世界平和を掲げる、連邦政府。そいつ等に力を注いでいるだけだ」

「...連邦政府?」

 それはここから遠く離れた大陸にある、もっとも文化の発展した都市群がそびえる国。その連邦政府のため、魔法書をかき集めているという事か。

「だが、私は知っているんだ」

 高らかな、演説の様な口調。この男の声は、張り上げれば観衆を魅了させる美声。

「連邦が企んでいるのは、とても恐ろしい事だと!!」


「賢しく生き繫いだ我々を欺き、平和を掲げ、そしてやがては殺戮の狼煙を上げるという事が!!」

「それは、一体どういう事だ!?」

「連邦が望んでいるのは....」


「平和などではなく、新たな人類の繁栄!!」


 黒い渦が、シリュウを包み込む。

「まさか、空間転移魔法を使うのか!?」

「新たな人類の繁栄に、我ら旧人類など、いらないというのが彼らの野望!!」

「その野望を止めるというのが、私の願いだ!」

 饒舌な口調で、シリュウは拳を掲げる。

「シリュウ...」

「私は、皆を救う!!」

 黒い渦はシリュウを包み、飛び散った。

「くっ!!」

 闇の渦に、身構えるレイザス。渦の中心にいたシリュウは、消えていた。

「なんなんだ...?」

 彼に宿っていたあの強い眼光は、かつてのそれと変わっていなかった。

 そしてレイザスは禁呪書が落ちているのを見つけた。


3

「はあ...はぁ....」

 強い。

 二人は浮遊している男の剣閃から逃げ回るので精一杯だった。

「知っているぞ。この浮遊を止める方法を...」

「何?」

 まぁ、みていろ

 とミレウは、避けるのを辞め、目を閉じて何かを詠唱し始めた。

 が、その時、男が一気にミレウ目掛けて、飛びかかってくる。


「危ない!!」


 ガッ

 剣と剣が激突する。だがその凄まじい威力に、ギンは地面を転がる。

 手の痺れを覚えながら叫ぶ。

「何してんだ?ミレウ!」

 聞いていない。

 さっきまでは逃げ回ってただけだが、その恐ろしい威力の剣閃をミレウを守りながら戦うのは、さすがにつら過ぎる。

「うおっ!」

 また飛んでくる、今度はギン目掛け上から一直線に。

「もう加減しないよ!!」

 もう防げない。

 やられる!!

 歯を食いしばり、剣を防御の態勢に構える。

 その時、銃声と突如爆発が起こる。

「うあっ!!」

 その主は、ソフィアだった。

「借り返し!っ」

 まさかここで助けられるとは、思っていなかったが、最大級の感謝を送る。

「ありがとう!」

 感謝を受け、にへへ、と笑うソフィ。

「助けられるだけの役じゃないんだよ?」

 もう一発を放つソフィ。その射撃は驚く程正確な照準だった。

「うあぁ!!?」

 男は悲鳴をあげながらも、後ろに浮遊する。

 そしてやがては地面に降りた。

「まずいな...」

「まぁがんばって?」

 さっきから見物している女が薄ら笑う。

「ハイハイ」

 男は今度は浮遊しなかった。

「魔法も塞がれちゃった訳だしね。君もヤバいんじゃない?」

「いいよ、アンタが負けたら逃げるから」

 ひどいな、と呟き、男がこちらに向き直る。

「発動妨害魔法か、困ったね」

 ミレウが詠唱していたのは、この魔法の事か?

 そう言えばミレウの周りには何かの魔法陣が展開されている。

「この空間の、魔法の発動を禁止した」

 発動妨害魔法は中位の封印魔法であり、発動と引き換えに全魔力を消費する。魔法陣を解けば、術者が発動した魔力は戻ってくるが。封印も解かれる。

 一長一短の魔法で、ミレウの様な魔法と接近攻撃を扱えている者には有利である。

 だが中級魔法の中では、覚えやすく、武器での戦闘も得意な術者に好まれている。

 しかし、術者よりも強力な魔力をもつ人物や、上位魔法は防げない。

 それに発動範囲もそう広くないし、詠唱に時間がかかるので、あまり実用的ではない。

「白兵戦だ」

 斧を抜き、女に構えるミレイ

 だが

「残念、これから楽しそうだけど、シリュウが退散したから、私たちも追いましょう」

「何!?」

 シリュウが退散した!?

「この戦闘に、意味は無いね」

 黒い渦が、二人の周りを飛び回る。

 

「バイバーイ」


 渦が大きくなり、その渦は破裂するように消えた

 

「.....逃げた」

「だな...」

 ギンはその場で、倒れるように深く眠り込んだ。

「ギン...?」

「眠っているな」


 そして

 魔導書を取り返す依頼は、成功に終わったが。

 禁呪書という事を隠したかった王国は口止め料に大金を払った。

 それを否定したレイザスは、代わりに家をギンに与える事で口止めすると言う約束をした。

 連邦政府の事は、レイザスは頭にしまい込んだだけで、俺達には伝えなかった。

取り敢えず、盗賊篇は完結です。

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