第10話 判断
私は絶望したのだ、だから、貴様にも私の絶望を見せよう。
シリュウ
1
「吐け!!魔法書は何処だ!!」
ギンは倒れたマルマルの襟を掴んだ。
「おおぉぉしぇぇるかよぉぉ」
ガン!
「吐けよ、コノヤロウ!!」
「だからぁ、おしえるかよぉ」
バキッ!!
「いい加減にしやがれ...」
ゴン!!
なかなか口を割らないのでギンはもう一度殴ろうと、拳を振り上げる。マルマルは慌てた。
「ああぁ、ストップストップ!!」
ギンの拳はマルマルの鼻に触れた所でとまった。
「やっと吐く気になったのか?」
「痛いのはぁ、つれぇからねえ~」
「とっとと言いやがれ!魔法書は何処にある!!」
「魔法書は...お頭のシリュウ様が持ってるよぉ」
「頭?てかどんな書なんだ?」
「禁呪...だよぉ」
「禁呪?」
どんな物かは分からないが分かる事は、ヤバい物という事だ。マルマルは満面の笑みを浮かべながら得意気に吐いた。
「そう、悪魔を復活を復活させるなぁ」
「お前等の目的は一体なんなんだ...?」
「それはなぁぁ...復讐だよぉ」
そして、マルマルは全てを話し始めたのだった。
2
闇が彼を襲った、黒魔法の中でも大威力を持つ上級魔法。
「暗黒魔法、暗黒の時空...」
デルミルは天を仰ぐ様に、魔法を発動した。
「うわ?!」
ガイは暗黒に包まれた。
「何も...見えねェ!!」
何も見えないのだ。
永遠に近い程の暗黒を切り裂いて、何かが見えた、光っている。それはだんだんと近づいてくる。
隕石だった、数えきれない程の数。それがガイ目掛けて飛んでくる。
「うわぁぁぁぁ!!!」
逃げようと足を動かそうとする、だが何かに縛られていて動く事も出来ない。
「ぐあああああっ!!!!」
やがて、大量の隕石はガイに激突した。
暗黒は解けたが、ガイは力尽き、地面に倒れていた。
3
「ハァハァ!!どこだ!!シリュウ!!」
ギン達はとにかく屋敷の廊下を駆けていた。ギンとソフィとミレウはマルマルの吐いたシリュウの目的を聞いて、一刻も早くシリュウを止める為に走っているのだ。
廊下の途中で、ミレウが止まる。
「どうした?」
「魔法だ!」
正面から炎が飛んでくる、それをミレウは素早く防御魔法で対応した。
「誰だ!!」
奴隷だった手下達は、もういない筈だ。という事はやはり黒魔導士だろうか。
「ここに来たという事はマルマルが...吐いたんだね。手下共はいや、奴隷達もやられたか...」
「仕方ないんじゃない、マルx2弱いし」
二人の男女が会話をしている、しかも驚いたのはそれだけではなかった。男は正面に居て、女は背後に居たのだ。
男は、髪が長く、腰までのばしている、そして手にはギンと同じくらいの長さの剣を持っていた。色は緑、剣にしては少し特殊な剣だった。
女は、男とは逆に、髪は短めで、金色の瞳からは強い意志が感じられる。
「てめえらっ、この先にシリュウはいるんだな!!」
「自分の目で、確かめるんだね」
「ちっ!!」
男は、ふわりと浮いて止まったかと思えば、そのまま一気にソフィに向かって飛んできた。
「ソフィ!!」
男の剣をミスリルソードで受け止める。
「っ!!!(強いっ!!)」
衝撃が剣を伝わって、ギンの体中に響いてくる。それを無理矢理押さえつけて男の剣を弾いて、体の体重を乗せて突いた。
だが、それは空振りに終わる。またふわりと浮いて、避けたのだ。
「ミレウさん!!こいつは俺に任せてくれ!!」
ギンはミレウに背中を向けたまま叫んだ。
「馬鹿な、もう戦えない程ボロボロになってるだろう、俺に任せてさがっていろ」
それもその筈、マルマルの爆撃をあれ程受けて、剣を握るのにも困難な程の重傷をうけているのだ。
相手の魔力からして、到底勝ち目など無い筈だ。
だが、ギンの後ろ姿を見ると、この男はどれだけ説得しても、相手と戦うだろう。と、そういう風に見えた。だがミレウは説得を試みた。
「ギン、今のお前では勝率は限りなく0に近い...たとえベストコンディションでも同じだ」
「俺はッ...!!」
勝てないという事は分かっていた。普通に任せておけば良い事は分かっていた。
自分の後ろにソフィがいる。
あの時もこんな風だった、だけどあの時は守れなかった。
相手はソフィを付け狙っている、それはマルマルの時もだった。そしてマルマルの吐いたシリュウの目的からして、ソフィが関連しているように見える。
目の前に居るソフィとギンの知っているソフィが別人だとしても、これはギンの覚悟だった。
ソフィを助ける、ソフィを護る。
それは何者にも揺るがす事の出来ない、ギンの中に植え付けられた、ギンを動かし続ける、全てなのだ。
だから、退き下がれなかった。退き下がらない。ギンは叫んだ。
「ソフィを護るんだっ!!」
「ギン...」
何故か、ソフィの頰を冷たい涙が伝わった。これはソフィ自身の涙ではない、でも何か大切な事を思い出だした様な懐かしい何かを感じた、それが何かは分からないが、涙を拭って笑顔で応えた。
「ありがとう」
「ミレウ...いいか?」
この二人の様子を見て、ミレウは半ば飽きれていた。フッ、色恋だ事だ...。と笑みをこぼした。
「仕方ないな...任せよう」
「ああ!!」
格好のいい場面を見ながら、黒魔導士の男は薄ら笑いを浮かべながら、魔法で体を浮かせた。
「フン...もういいかな?そろそろ見物も飽きてきたんだけど...」
「ああ、ごめんな、もう少し待ってくれ」
ギンは丁寧に返し、もう一度ミレウに振り向いた。
「ミレウ...ソフィは頼んだ!」
この男はソフィだけを狙っている、という事はここでギンが止めれば良いという事だ。
「ああ...女の方は任せろ」
のんきにあくび等している女の方に振り返ると女は反応した。
「お話の長い人たちねぇ」
「フン...覚悟するんだな...」
最後に、ミレウはギンの方に振り返り杖を取り出した。
「回復魔法だ...死ぬなよ..」
魔法のおかげで体が軽くなった気がする。さっき迄の痛みは失せて、体の傷が癒された。
「ありがとう」
小声で礼を返して、ギンはミスリスソードを構えた。
「おっと、話は終わりで良いのかい?」
「待たせたな...」
相手はふわりと浮いては、ぐるぐると飛び回った。
「じゃあ、いいんだね?言っておくけど僕は黒魔導士の中では、一番魔力が高いからね」
「君のレクイエムを...奏でてやろうじゃないか」
ギンは剣を構えて、走り出す。
「残念だが...死ぬつもりは無え!!」
タンカだけの一話になった気がするぞ...