第1話 決意
「神は天の下に人をつくらず」とか言う言葉がある。だがそんな事は嘘、人は親によって才能が違うものだ。そうこの「俺のようにな!!」彼、宮内 吟は叫びを上げた。彼の建てた高層ビルの屋上からだ。大学2年生権大企業の御曹司+3つの会社の社長を務めるいわば「勝ち組エリート」という奴である。屋上から新宿の空を一望する。完成したばかりの建物でひときわ高く、目に新しい風景だった。緋色の空が辺り一面の建物にその色を焼き付かせていた。そんな彼がとある日失踪してしまう事になるとも知れず。
そのとある日の事だった。親友の鈴木とともに大学から帰る日の事だ。新宿の駅を降りて二人で話しながら路地を曲がっていくとまったく人の気のない道に出た。
「あれ?…」
鈴木が不思議がる、この道は月日を問わず毎日のように賑わっている場所のハズだ。おかしい程の静寂の中、音が響いた、その音を聴き違えるはずもなく、ギンと鈴木の耳にはなにかが走ってくる音が、恐ろしくはっきりと聞こえていた。気づけば二人は走り出していた。何かが追いかけてくる、そして逃げ切った、と、思った瞬間銃声が鳴り響く、二、三回と響き終わる時意識が遠のいた。
「麻酔…銃??」
自分の身体に起こった異変を確認するように薄れる意識のなか残る力を振り絞り呟やいた。意識が消える瞬間に、自分と鈴木を撃ち抜いた男の野太い声が耳の中に入り込んできた。
「標的の宮内ギンと思われる人物の確保終了しました。ええそうです、遺伝子は……」
ここで意識が途切れた。
声が聞こえ目の前の闇が晴れてゆく、俺は死んだのか?こんな所で死にたくない。その気持ちとは裏腹に走馬灯が頭に流れた。三ヶ月前に購入したマンションが酷く懐かしく感じる。さまざまな出来事が遠い記憶のように頭に流れ込んでくる。これが死の淵まで追いやられた人間の遠く悲しい刹那の感情なのか、居るのかも分からない神などに自分の生存を、ただ祈った。
「…目ぇ覚めたか?」
「強力な麻酔銃だとなかなか起きませんね…」
「叩き起こしゃええやろ」
「そんな無茶なことしないで下さいよ!」
二人の会話が一言ずつどんどん大きくなってゆく関西弁を話す男性と女性だ。次第に目の前の風景もしっかりくっきりと映ってきた。ここはどうやら何かの部屋で自分はそのベットに寝かされていた。右腕には点滴が付けられていて、顔を動かそうとしたが鉛のように重く身動きがとれなかった。ここは何処だそしてお前らは何者だ?と問うが声に出ていないらしく、口がわずかに動いただけだった。男が首を傾げわざとらしく微笑みを返してくる。その様子を見た女性が男に注意を飛ばす。
「こら!知床さん!何してるんですか?!彼に説明する為にここにきたんでしょう?」
知床と呼ばれた男は切れ長の目をこちらに向けながら女性にすまんすまんと返す。
「反省の意もないでしょう…まあいいです」
そこで置いてきぼりになっていたギンに彼女が気付き自己紹介を始めた。
「あっ私総合分子研究課開発員の山本奈津です。でこちらが総合分子研究課副局長の知床冷多です。」
「冷多や、よろしく」
「ここは…どこだ!?」
「まぁええよどこでも、君に会わせたい人がおるんや。」
どうやら誰かが自分に会いたいらしい。
「お前らっ!!いったい何なんだ!!鈴木も何処にやっ…」
「まあええからついてき」
冷多が冷たい微笑みを飛ばしてきた。背筋が凍り付くようにゾッとするような妖しい切れ長の眼の中は深く恐ろしい金色の眼光が見える。逃がさないとでも言われているような縛られている感覚に襲われた。直視が出来ない、このまま冷多の眼光を見続けていると潰されそうになる、おかしくってしまいそうで思わず目を逸らした。
「どした?」
冷や汗を流すギンに冷多はわざとらしげに首を傾げた。気をまぎわらす為に冷多が話を始める。
「なんで君をここに招聘したか、知っとる?」
「誘拐だろコノヤロウ」
「君は選ばれし人間なんや」
「実はな、三十年後ぐらいに世界はな」
冷多がそこで息を止めゆっくり口を開いた。
「消えてゆくんや」
「は!!!?」
そんな訳がないとギンが罵った。だが冷多の悪戯っぽい笑みは無かった。こいつは本気で話している。
「こっからが本題や、耳の穴かっぽじって聞いてき。」
三年前とある国の首都で、この世界、地球のすべてを構築している物質が次々に消えてしまう現象が起こった。そして地球自体の磁力も乱れ、大気圏が鱗のように剥がれてしまう現象に繋がってしまう。という事が予想される。その事件は報道されず、その国の重役ぐらいが知っている事件だったが、三年間の研究で三十年後にまた起こるという計算が出た。
しかも次の時には大気が地球から離れてしまう。それが世界の終焉の時となる。それを止める為、冷多達が動き始めたのだ。そして、とある機械が開発された。人間を異世界に飛ばす機械である。その名を「クラッド」と言う。
しかしクラッドは通常の人間に使用すると何も無い空間「無」に飛ばされてしまうので遺伝子強化された特殊な人間でないと成功できない。
そして冷多達、総合分子研究課の目的は地球の崩壊を止める為、ギンを異世界の惑星に送り込むのだ。その異世界は「人間のいる惑星」いわば第二の地球に行くという事だ。目的の惑星にはクラッドが高速計算し、その条件にあった星へと空間をねじ曲げ一瞬でその場所にギンを空間転移させるのだ。平たく言えば小さい網を無理矢理引っ張って網目を大きくしそこにボールを投げて通すやり方である。
「……こんなとこやな」
「おい、俺が行く事前提になってんじゃねーか!誰が行くか!」
「何いってんの?君無理矢理確保させたのボクやし」
「てめぇだったのか…」
そう聞いてしまえば納得できる。冷多は多少強引に話をすすめた。
「そういや君に会わせたい人がおるっていってはったけど、この写真見てみ」
山本が前に居る冷多に写真を一枚渡す、何の写真かは、ベットの上にいたために身を乗り出す事が出来ない。冷多がギンにその写真を見せる。ギンは写真に映っている人物に驚いた。その写真には自分の恋人が映っていたのだ。
「この娘ね。向こうの世界の君の彼女さんなんやで」
その言葉を噛み締めるように確認するように繰り返した。
「向こうの…彼女…」
「そこがおかしいんや、なんで向こうに居るのか」
「そんな…死んだ…はずじゃ」
「どや?行く気、なった?」
彼女のあの不可解な死に方はずっと分からなかったが今道が開けた気がする。捜さなければいけない。彼女の無念を晴らさなければならない。ギンは考えた末に答えを返した。
「ああ、行かせてくれ!」
「そか、なら着いてきてみ。」
それから冷多は細い目をさらに細めて言った。
「じゃ、次は試験や、試されるのは…君の命や。」
点滴を外してドアを開け、冷多の後ろに同行する。廊下は病院の廊下のようにずっと長く広がっていた。横を見回したが窓がない。ここは地下なのだと冷多が説明してくれた。エレベーターに入り向かったのは地下二十階である。数秒で着きエレベーターを出て向かったのは「ホールドルーム」と書いてある広い空間だった。
目の前には大きな緑色のガラスが敷き詰められたドーム状の部屋が広がっていた。
「このなかで戦ってもどんはに血ぃ出しても出てくる時には治ってるんやで。さ、入ろか。」
ホールドルームの中に入るとさっきまでの痛みや疲れが消え失せた。冷多が話しかけてくる。
「さあ、試験開始やそこにある剣を抜き、勝負や!!」
冷多が剣を抜いた、どうやら剣での試験らしい。フェンシングや剣道なら全国トップ10に入った事が何度もあるギンは足下にある剣を拾った。
「行くぞっ!!!」
必ず勝って彼女を救ってみせると決意を刃に乗せて構えた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。まだまだ下手ですががんばりますっっっ!!!