エピローグ 永遠の銀と黒
それから数ヶ月が過ぎた。
ヴェルモンド公爵邸の日常は、表面上は何も変わらなかった。
公爵令嬢アリアナ・ド・ヴェルモンドは、優雅にティータイムを楽しみ、領地の管理に目を光らせ、使用人たちに穏やかな微笑みを向ける。
だが、その足元に、常に一人の影が寄り添っていた。
エリカ・ド・ラルフ――かつては男爵令嬢だった少女は、今や公爵邸の「特別な侍女」として、誰の目にも触れぬ場所で静かに生きている。
彼女の首には、銀の紋章が刻まれた黒い革の首輪が、決して外されることなく嵌められていた。
鎖は短く、私の腰に巻きつけられることが多く、歩くたびにじゃらじゃらと小さな音を立てる。
朝、寝室のカーテンが開くと、エリカはすでにベッドの足元に跪いている。
黒髪を丁寧に結い上げ、きちんとしたメイド服を着せられている。
彼女は額を床に押しつけ、静かに待つ。
「おはよう、エリカ」
私の声に、エリカの肩がわずかに震える。
ゆっくりと顔を上げ、青みがかった瞳が私を捉える。
そこには、もう元の生意気な女子大生の面影はない。
ただ、深い服従と、静かな充足だけが満ちている。
「……おはようございます、アリアナ様。今日も……お傍にいさせてください」
声は穏やかで、確かだ。
私は鎖を優しく引いて彼女を引き寄せ、膝の上に座らせる。
エリカの身体は温かく、静かに寄り添う。
「毎朝、あなたは私にこうして……忠誠を誓うのよね」
エリカは頷き、静かに目を伏せる。
「はい……アリアナ様。わたしは……永遠に、あなたの忠実なメイドです」
私は彼女の髪を優しく撫で、額に手を置く。
「元の世界で私を追い詰めた罪は、もう許してあげる。でも……あなたは永遠に、私のそばで仕えるのよ」
エリカは涙を浮かべながら、弱々しく微笑んだ。
「……はい……アリアナ様……わたしは……幸せです……」
月光が部屋を照らし、銀髪と黒髪が絡み合う。
二人の影が壁に長く伸び、静かな夜が続く。
復讐は終わった。
そして、新たな主従の物語が、穏やかに、深く、続いていく。
(完)
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