第一話 転生の朝、復讐の始まり
私は――いや、私だった男は――混雑した電車のホームに立っていた。
突然、背後から女子大生の叫び声が響いた。
「痴漢! この人が触ってきたんです!」
周囲の視線が一斉に突き刺さる。
逃げようとした足がもつれ、ホームから転落した。
落ちる瞬間の恐怖と、理不尽な絶望が胸を焼き尽くした。
そして、目を開けたとき、私は別の世界にいた。
柔らかな絹のシーツに包まれ、甘い花の香りが漂う部屋。
鏡に映ったのは、長い銀髪を優雅に流した、美しい少女の姿だった。
ヴェルモンド公爵家の令嬢、アリアナ・ド・ヴェルモンド。
この身体は繊細で、気品に満ちている。
元の記憶と、この令嬢の記憶が混じり合い、すべてが理解できた。
異世界転生。
しかも、性別が変わった転生。
男だった私が、今は公爵令嬢として生きている。
そして、あの女子大生もこの世界にいることを、私は知っていた。
彼女は男爵令嬢、エリカ・ド・ラルフ。
元の世界で私を冤罪で追い詰め、人生を壊した女。
今は、私より格下の地位にいる。
運命の皮肉だ。
朝の謁見の間。
公爵家の私室に、エリカは連れてこられた。
黒髪を後ろで束ね、青みがかった瞳に怯えが浮かんでいる。
元の世界と同じ、強い意志を感じさせる唇が小さく震えていた。
「ア、アリアナ様……どうして、私を……」
私は優雅に椅子に腰を下ろし、足を組んだ。
公爵令嬢の威厳を纏って、静かに告げた。
「あなたは、これより私の専属メイドになるわ、エリカ」
「拒否は、認めない」
エリカの顔が青ざめた。
「そんな……私は男爵家の令嬢です! こんな屈辱……!」
私はゆっくり立ち上がり、彼女に近づいた。
指先で、エリカの顎を軽く持ち上げる。
「屈辱? ……あなたが私にかけた冤罪のほうが、よほど残酷だったわよね」
エリカの瞳が大きく見開かれる。
彼女も、思い出したのだろう。
あの電車での出来事。
私の――元の私の――絶望を。
「さあ、まずは……あなたの立場を、はっきりさせましょうか」
私はエリカの手首を掴み、部屋の奥へと導いた。
そこは庭に面したテラス。
朝の陽光が差し込み、薔薇の花が鮮やかに咲き乱れている。
「これから、あなたは私のそばで仕えるの。毎日、私の命令に従い、私の生活を支える。それが、あなたの贖罪よ」
エリカは必死に首を振った。
「そんな……私は……」
「拒否すれば、男爵家への圧力もかけるわ。あなたが望むなら、そうすることもできるけれど……?」
エリカの肩が震えた。
瞳に、恐怖と諦めが混じり始める。
私は微笑んだ。
優しく、しかし冷たく。
「心配しないで。あなたを壊すつもりはないわ。ただ……前世で受けた痛みを、少しだけ返したいだけ」
エリカは唇を噛み、ゆっくりと膝をついた。
「……わかりました。アリアナ様」
声は小さく、震えていた。
私は彼女の髪を優しく撫でた。
「いい子ね、エリカ。これから、長い付き合いになるわよ」
庭の薔薇が朝陽に輝く中、エリカの新たな日々が始まった。
前世の因縁が絡み合い、静かに、復讐の物語が動き出す。
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