第十六話 領主館の朝の回廊と、初めての朝立ち公開散歩
領主館の長い回廊は、朝陽がステンドグラスを透過して色とりどりの光の帯を床に落としていた。
夜通し休ませなかったエリカは、ベッドの上で意識を失いかけていた。
首輪の革が首に食い込み、肌に薄い痕を残し、肩を震わせて私の足元に崩れ落ちた。
私はベッドからゆっくりと立ち上がり、彼女の鎖を手に取った。
カチリと音を立てて首輪に繋ぎ直す。
「まだ朝よ、エリカ。……今日は領主館の回廊を、あなたの新しい朝のルーティンで歩きましょう」
エリカの瞳がかすかに焦点を結んだ。
掠れた声が、喉の奥から絞り出される。
「……もう……歩けない……アリアナ様……」
「歩けないなら、四つん這いでいいわ。……朝の光の下で、使用人たちに見られながら、あなたの立場を思い出しなさい」
私は鎖を短く握り、エリカの身体をベッドから引きずり下ろした。
膝が折れ、床に手をつく。
四つん這いの姿勢で、彼女の息が荒くなる。
私は鎖を引いて回廊へ連れ出した。
朝の回廊は使用人たちが行き交う時間帯。
朝食の準備をするメイド、庭の手入れをする庭師、代官の執務に向かう者たち……。
彼らの視線が一斉にこちらに向けられる。
エリカの身体がびくりと震えた。
鎖に引かれ、四つん這いで這い進む姿が、朝陽に照らされて静かに浮かぶ。
「見ないで……皆に……また……見られて……」
「見られるのが、あなたの新しい朝の目覚めよ」
私は鎖を軽く引いて歩みを進めた。
エリカは必死に這い進むが、膝が震え、息が乱れる。
使用人たちの視線が静かに彼女に注がれ、誰かが息を呑む音が聞こえた。
私は立ち止まり、エリカの肩を軽く押さえた。
回廊の中央で、四つん這いのまま彼女の顔を上げさせる。
「ほら、見せてあげなさい。……朝から私の前に跪き、皆の前であなたの立場を思い出すところを」
エリカの瞳に涙が溜まり、唇が震える。
私は静かに語りかけた。
「あなたはね、エリカ……元の世界で、私を冤罪で追い詰め、人生を壊した女。今は違うわ。公爵令嬢の前に這い、鎖に繋がれ、使用人たちの前で過去の罪を償う。この回廊のように、毎朝皆の視線の中で、あなたの立場を思い出しなさい」
エリカの息が荒くなり、瞳に涙が溢れる。
私は言葉を続け、容赦なく畳み掛けた。
「あなたはもう、男爵令嬢ではない。私のそばで仕えるだけの存在。毎朝こうして、私の前に這い、過去の罪を認め、忠実に仕える。あなたはもう、普通の令嬢には戻れない。私のそばで、忠実に仕える存在に……作り変えられるのよ」
エリカの身体が小さく震え始めた。
瞳が虚ろになり、唇が震える。
私は鎖を軽く引いて、静かに告げた。
「言ってみなさい、エリカ。『私はアリアナ様の忠実なメイドです』って」
エリカは首を激しく振った。
涙がぽろぽろと零れる。
「いや……言えない……そんな……」
「言えなかったら……この回廊を何周も這い続けるわよ。使用人たちの視線の中で、過去のことを思い出しなさい」
私は静かに見つめ続けた。
朝陽がステンドグラスから差し込み、色とりどりの光が回廊を染める。
エリカの唇が震え、ついに小さな声が漏れた。
「……わたしは……アリアナ様の……忠実な……メイド……です……」
その瞬間、エリカの肩が落ち、涙が床に落ちた。
私はゆっくりと鎖を緩め始め、彼女の額に優しく手を置いた。
「いい子ね、エリカ。……これが、あなたの新しい朝の儀式よ。毎朝、こうして回廊を這い、皆に見られながら、私に忠誠を誓うの」
回廊の朝陽が、二人の姿を優しく照らし続ける。
使用人たちの視線が静かに彼女に注がれ、朝の光が色とりどりに肌を染めていた。
彼女の心は、まだ「毎朝こんな……」と小さく怯えている。
だが、朝の公開的な場で立場を認めさせられた屈辱を――もう、忘れられなくなっていた。
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