第十二話 領主館の謁見の間と、初めての公開奴隷宣言
午後の陽光がヴェルモンド公爵領の街道を黄金色に染めていた。
公爵家の黒塗りの馬車が、馬の蹄の音を響かせてゆっくりと進み、領内の小さな領主館に到着したのは夕暮れが迫る頃だった。
古い石造りの建物は、公爵領の外縁に位置し、普段は地方の代官が管理するだけの静かな場所。
だが今日は、私、アリアナ・ド・ヴェルモンド公爵令嬢の視察という名目で、使用人や近隣の小貴族、農民の代表が集められていた。
謁見の間は広々としており、天井の高い石壁に沿って松明が灯され、橙色の揺らめく光が床の絨毯を照らしている。
私は玉座のような椅子に優雅に腰を下ろし、銀髪を背に流した。
ドレスの裾が膝まで滑り落ちる。
私の足元には、エリカが跪かされていた。
首輪から伸びた鎖が私の手首に巻きつけられ、彼女の両手は背中で革の枷で固定されている。
これまでの出来事の痕が、彼女の肌に薄く残っている。
膝立ちの姿勢で、馬車の揺れの余韻がまだ残り、鎖がじゃらりと小さな音を立てる。
エリカの瞳は虚ろで、唇が震え、掠れた息が漏れていた。
謁見の間に集まった者たちが、息を呑んで私たちを見ていた。
代官、小貴族の妻、農民の代表、数名の使用人……。
誰もが公爵令嬢の「特別なメイド」を見るのは初めてだった。
私はゆっくりと鎖を引いた。
エリカの身体が前に傾き、額が絨毯に触れる。
「皆さん、今日は私の大切なメイドを紹介するために来ていただきました」
声は甘く、しかし冷たく響く。
集まった者たちの視線が、エリカに集中する。
彼女は必死に顔を伏せ、肩を震わせた。
「……見ないで……こんな……皆の前で……」
私は鎖をさらに引いて、彼女の顔を上げさせた。
涙で濡れた瞳が、謁見の間に晒される。
「顔を上げなさい、エリカ。……皆に、あなたが何者かを、ちゃんと宣言するのよ」
エリカの唇が震え、喉が詰まる。
だが、私は容赦なく鎖を軽く締め上げ、息を詰まらせる。
「言ってみなさい。……『私はアリアナ様の忠実なメイドです』って」
集まった者たちの息遣いが、一瞬止まった。
エリカの瞳に涙が溢れ、頰を伝う。
小さな声が、謁見の間に響いた。
「……わたしは……アリアナ様の……忠実な……メイド……です……」
私は満足げに微笑み、鎖を短く握ってエリカの身体を引き寄せた。
彼女の顔を自分の膝に近づけ、静かに語りかける。
「もっと大きな声で。……皆に聞こえるように」
エリカの喉が震え、涙がぽろぽろと零れる。
「わたしは……アリアナ様の……忠実なメイドです……!」
声が謁見の間に反響した。
集まった者たちの視線が、静かに彼女に注がれる。
私はゆっくりと立ち上がり、エリカの髪を優しく掴んで顔を上げさせた。
涙で濡れた顔を、皆に見せつける。
「これが、私のメイドです。皆さんも、覚えておいてくださいね」
私は満足げに微笑み、鎖を引いてエリカを立たせた。
彼女は膝が震え、よろめきながらも、私の後ろに続く。
謁見の間の松明が、静かに揺れ続け、エリカの嗚咽を優しく包み込んだ。
彼女の心は、まだ「皆に見られた……」
と小さく怯えている。
だが、公開の場で過去の罪と現在の立場を認めさせられた屈辱を――もう、忘れられなくなっていた。
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