第九話 朝霧の迷路と、初めての追跡凌辱
朝霧がヴェルモンド公爵邸の庭園迷路を白く覆っていた。
夜通し放置されたエリカは、石の柱に鎖で繋がれたまま、膝を折ってうずくまっていた。
冷えた夜露で肌が湿り、首輪の革は重く首筋に痕を残している。
彼女の瞳は虚ろで、涙が頰を伝い、黒髪は乱れて顔に張り付いていた。
私は霧の中からゆっくりと現れ、鎖の先を手に取った。
カチリと留め具を外す音が、朝の静寂に響く。
「よく耐えたわね、エリカ。……でも、まだ終わらないわよ」
エリカの唇が震え、掠れた声が霧に溶けた。
「……もう……動けない……アリアナ様……許して……」
「許す? ふふ……あなたは今朝から、私の狩りの獲物になるの」
私は鎖を短く握り、エリカの身体を強引に立たせた。
膝ががくがくと震え、よろめく彼女を支えるように鎖を引く。
霧に濡れた姿が、朝陽の淡い光に照らされて静かに浮かぶ。
「この迷路で……あなたを追うわ。逃げなさい、エリカ。捕まえたら……もっと厳しい罰をあげる」
エリカの瞳が恐怖で揺れた。
私は鎖を外し、彼女の背中を軽く押した。
「走りなさい。……捕まらないように」
エリカはよろよろと走り出した。
裸足で石畳を踏み、霧の中へ消えていく。
足音が迷路の壁に反響し、荒い息遣いが霧に混じる。
私はゆっくりと追い始めた。
銀髪を朝霧に揺らし、優雅に、しかし確実に距離を詰める。
迷路の曲がり角で、エリカの姿がちらりと見えた。
彼女は壁に背を預け、肩で息をしていた。
私は音もなく近づき、耳元で囁いた。
「見つけたわ、エリカ」
エリカの身体がびくりと震え、悲鳴のような声が漏れた。
「いや……来ないで……」
だが、彼女は逃げなかった。
いや、逃げられなかった。
膝が震え、壁にしがみつく手が滑る。
私は彼女の腕を掴み、壁に押しつけた。
背後から覆い被さり、静かに語りかける。
「あなたはね、エリカ……元の世界で、私を冤罪で追い詰め、人生を壊した女。今は違うわ。公爵令嬢に追われ、どこへ逃げても捕まる。この迷路のように、運命から逃げられないのよ」
エリカの息が荒くなり、瞳に涙が溜まる。
私は言葉を続け、容赦なく畳み掛けた。
「あなたはもう、男爵令嬢ではない。私のそばで仕えるだけの存在。毎日こうして、追われ、捕まり、過去の罪を償う。あなたはもう、普通の令嬢には戻れない。私のそばで、忠実に仕える存在に……作り変えられるのよ」
エリカの身体が小さく震え始めた。
瞳が虚ろになり、唇が震える。
私は彼女の肩を軽く押さえ、静かに告げた。
「言ってみなさい、エリカ。『私はアリアナ様の忠実なメイドです』って」
エリカは首を激しく振った。
涙がぽろぽろと零れる。
「いや……言えない……そんな……」
「言えなかったら……もう一度、迷路の奥まで追いかけるわよ。捕まるまで、逃げ続ける?」
私は静かに見つめ続けた。
エリカの唇が震え、ついに小さな声が漏れた。
「……わたしは……アリアナ様の……忠実な……メイド……です……」
その瞬間、エリカの肩が落ち、涙が石畳に落ちた。
私はゆっくりと彼女を支え、額に優しく手を置いた。
「いい子ね、エリカ。……少しずつ、あなたの心も、私のものになっていくわ」
霧が薄れ、朝陽が迷路の壁に差し込む。
エリカは地面に膝をついたまま、肩を震わせて嗚咽を漏らしていた。
彼女の心は、まだ「逃げたい」と小さく呟いている。
だが、追われ、捕まる屈辱と、過去の罪を突きつけられる現実を――もう、忘れられなくなっていた。
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