表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢のメイド奴隷~前世の冤罪は、異世界で立場を逆転させる~  作者: 華咲 美月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/22

プロローグ 婚約破棄の夜

 王都の中心にそびえるヴェルモンド公爵邸の舞踏会場は、燭台の柔らかな光と宝石のきらめきで満たされていた。


 絹のドレスが優雅に揺れ、弦楽四重奏の調べが会場を包み、貴族たちの笑い声が華やかに響き合う。

 その中心に立つのは、ヴェルモンド公爵令嬢、アリアナ・ド・ヴェルモンド。


 銀色の長い髪を美しく結い上げ、深い青のドレスが彼女の気品を一層際立たせていた。

 完璧な微笑みを浮かべ、王太子レオニス殿下の腕にそっと手を添え、貴族たちに優雅に挨拶を返す。


 誰もが羨望の眼差しを注ぐ――政略婚約の象徴として、二人はまさに絵に描いたような完璧な姿だった。


 だが、アリアナの胸の奥には、温かなものは何もなかった。

 レオニス殿下の視線は、いつも彼女を通り越して遠くを見ている。


 愛など、最初から存在しない。


 ただの義務、ただの契約。


 それでいい――そう自分に言い聞かせていた。


 少なくとも、今夜までは。

 パーティーが中盤に差し掛かった頃、レオニス殿下が静かにアリアナの手を引き、バルコニーへと連れ出した。

  夜風が冷たく頰を撫で、月光が大理石の床を白く照らす。


 殿下は静かに、しかしはっきりと告げた。

「アリアナ……婚約を破棄したい」

 言葉は静かだったが、アリアナの心に鋭く突き刺さった。


 微笑みが一瞬で凍りつく。

「……どうして、急に」

「君を愛していない。……本当の気持ちは、別の女性に向いている」

 レオニス殿下の視線が、舞踏会場の中へと向かう。


 そこにいたのは、黒髪を優雅に流した男爵令嬢、エリカ・ド・ラルフ。


 彼女は殿下を見つめ、頰をほんのり染めながら、控えめに微笑んだ。


 身分を超えた、熱い想いが二人の間で静かに交錯しているのがわかった。

 アリアナの胸が、重く沈んだ。


 政略婚約とはいえ、公爵令嬢としての誇り、未来の王妃の座……すべてが音を立てて崩れていく。


 屈辱と虚しさが、静かに心を覆った。

「……エリカを、愛しているのですね」

「そうだ。

 彼女だけが、私の本当の心を動かしてくれる。

 アリアナ、君には申し訳ないが……これ以上君を縛ることはできない」

 殿下の言葉は優しかった。


 だからこそ、余計に胸を抉った。

 アリアナは唇を軽く噛み、ゆっくりと手を離した。

「……わかりました。婚約の破棄を、受け入れます」

 声は震えなかった。


 だが、心は深く傷ついていた。

 その瞬間、欄干に手をかけたアリアナの視界が、ぐらりと揺れた。


 胸の奥から、何かが溢れ出すような感覚。

 ――混雑したホーム。


 電車の到着を知らせる音。


 突然の叫び声。

「痴漢! この人が触ってきたんです!」

 周囲の視線が一斉に突き刺さる。


 逃げようとした足がもつれ、ホームから転落する。


 落ちる刹那の恐怖と、理不尽な絶望。

 アリアナの瞳が見開かれた。


 記憶が、洪水のように蘇る。

 ――自分は、男だった。


 普通の会社員だった。


 名前は……もう思い出せないけれど、確かに男だった。

 そして、あの女子大生。


 黒髪で、強い瞳をした……エリカ。


 彼女の叫びが、自分を死に追いやった。

 アリアナの視線が、舞踏会場の中のエリカへと向く。


 エリカもまた、突然顔を上げ、青ざめていた。


 彼女の瞳にも、同じ記憶が蘇っているのがわかった。

 二人の視線が、月光の下で交錯する。


 過去の「冤罪の被害者」と「加害者」が、この異世界で再び出会った。

 アリアナの唇が、ゆっくりと動いた。


 声は小さく、しかし冷たく響く。

「……あなただったのね、エリカ。あの時の……私を陥れた人」

 エリカの顔がさらに青ざめ、身体が小さく震えた。


 レオニス殿下が訝しげに彼女を見るが、エリカの目にはもう殿下の姿は映っていない。

「……ごめん……なさい……あの時は、私……」

 謝罪の言葉は途切れた。

 アリアナの瞳に、静かな決意が宿る。

「謝罪は、もういいわ。……あなたは、私の人生を壊した。そして今度は、私があなたの人生を変える番よ」

 アリアナはゆっくりとバルコニーから舞踏会場に戻り、エリカの前に立った。


 貴族たちの視線が集まる中、彼女はエリカの手をそっと――しかし確実に――取った。

「エリカ・ド・ラルフ。これより、あなたはヴェルモンド公爵家に仕えることになるわ。私の専属メイドとして、そばに置きなさい。……拒否は、認めない」

 エリカの瞳に、恐怖と、どこか抗えない運命のようなものが混じった。

  月光が二人の影を長く伸ばし、舞踏会場の音楽が遠く響く。

  前世の因縁が絡み合い、新たな物語が静かに幕を開けた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

よろしければブックマーク登録、広告下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ