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7話

 



「入れ」


 扉の内側から響いたその声は、入学式で聞いた演説と同じものだった。朗々と響き渡りながらも、どこか薄氷のような繊細さを孕んでいる。


 グティの後に続いて一歩を踏み出したマリーゴールドの視界に、豪奢を極めた生徒会長室が広がった。


 高い窓から差し込む陽光は、金色の刺繍が入った真っ赤な絨毯を照らしている。


 正面には重厚なマホガニーの机があり、書類が山と積み上げられていた。その奥に、青色の髪をなびかせた長身の王子――クリスティアンが座っている。


 目が合って、数秒。


「グティ、君は下がっていい」


 王子の言葉に、グティの眉がピクリと跳ねた。


「しかし殿下……! 素性の知れぬ一年生と二人きりなど、万が一のことがあれば……」


「いいんだ。彼女と、二人きりで話がしたい」


「……承知いたしました」


 深々と頭を下げるグティの横顔は、不審者を残していく不安と、嫉妬が混ざり合ったような、苦々しいものだった。


 やがて、重い扉が再び閉ざされる音が響く。


 広い部屋の中に残されたのは、気高き王子と、小柄な新入生の少女だけ。


 完全な沈黙が、二人を包み込んだ。


 マリーゴールドは、黙って王子の顔を見つめる。近くで見れば、なおのこと分かる。体格も顔立ちも男性になっているが、面影は間違いなくある。


 熱心に歴史を語っていた、あの時の顔だ。


「いいですか、例えば石田三成! 彼は融通が利かなくて敵も多かったけど、主君への忠義は誰よりも熱かった。あの『不器用すぎる一途さ』が乙女心を掴むんです」


 さて……。


「美沙ちゃん、元気にしてた?」


 マリーゴールドが軽い調子で言葉を投げかけた途端、冷酷といわれる王子の瞳が、みるみる涙で滲んだ。


 椅子から立ち上がり、ふらふらとした足取りで数歩進む。そして絨毯の上に膝をつく。


「五郎さん……本当に五郎さんなんですよね?!」


「なんか色々大変だったみたいだな。話は噂程度には聞いてるよ」


「大変です、ものすっごく大変でした! 聞いてくれますか?」


「聞かせてよ」


 マリーゴールドの微笑みに、クリスティアン王子は目を閉じ、天井に向かって長い息を吐いた。





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