6話
太陽が降り注ぎ、宝石のように眩いきらめきを放つ白亜の学舎。
お城のような学院の、高い天井が特徴的な教室に、終わりのチャイムが鳴り響いた。
入学式という人生の節目を終え、初日のレクリエーション活動も無事に終了。いわゆる午前授業で解散となった教室には、張り詰めていた空気が緩み、安堵の混じった賑やかさが戻っていた。
「……あー、緊張した! 腹減ったな」
「ねえ、これから一緒に中庭のテラスで飯でも食いに行かない?」
「明日からもよろしくね。一緒に頑張ろう」
身支度を整える生徒たちの表情は、どれも期待に満ちた新入生らしいものだった。
しかし、教師と入れ替わりで一人の生徒が教室に足を踏み入れた瞬間、その喧騒は雪解けの水を凍らせるような静寂へと変わった。
胸元のバッジを確認するまでもなかった。洗練された所作、鍛え上げられた細身の高身長、そして眼鏡の奥に宿る怜悧な光。一目で彼が上級生であることは明白だ。
「……二年のグティエレス・エルナンデスだ」
低く、けれど教室の隅々まで響く声。
生徒たちは息を呑んだ。
あの「冷酷王子」の懐刀であり、一介の世話係から筆頭側近へと上り詰めた、グティエレス・エルナンデス。
グティの鋭い視線が、教室の一点に定まる。
「マリーゴールド。殿下がお呼びだ。今すぐに生徒会長室に向かえ」
教室内が騒然とした。呼び出し。それも「冷酷王子」として畏怖される、第一王子クリスティアンの元へ。
「承知しました」
椅子を引く音と共に、黒髪の小柄な少女が立ち上がる。よく通る、堂々とした声。
マリーゴールドは表情を一切変えることなく、グティの後ろへと続いた。
退室する二人の背中に、クラスメイトたちのひそひそ話が降り注ぐ。
「……あいつ、死んだわ。冷酷王子に目を付けられるなんて」
「違うよ、多分お褒めの言葉を頂くんじゃない?」
「ああそうか、入学式で貧血で倒れた子を助けてあげてた件か」
廊下に出ると、グティは一切振り返ることなく、機敏な動きで歩を進める。
(こうなることは、ある程度予想していた。驚きはしない……)
学院一の有名人。不正を許さず、親族にすら一切の容赦なく淡々と粛清を完遂した「青い宝石」の意志を持つ王子。
(果たして、クリスティアン王子は本当に美沙ちゃんなのか。それとも、ただ雰囲気が似ているだけの別人か……)
冷酷王子。
その二つ名は、五郎の知っているあの子とは、あまりにも似つかわしくなかった。
社会人になったはいいものの、組織の理不尽に馴染めず、たった三ヶ月で退社してニートになってしまった、隣に住むオタク気質の女の子。
「五郎さん、大変です……! 今度の連休、九州の博物館で本物が展示されるんですよ!そう、『とうらぶ』で私が一番推してる、あの名刀の本体です! 是非一緒に付いてきて欲しいんです!」
好きなものの話になると少し恥ずかしそうに、けれど熱っぽく語っていた彼女の顔。
(……もし中身が本当に美沙ちゃんだとしたら、苦しんでいるだろうな)
王子の正体を確かめるべく、マリーゴールドは静まり返った廊下を歩いた。
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