表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/14

6話

 



 太陽が降り注ぎ、宝石のように眩いきらめきを放つ白亜の学舎。


 お城のような学院の、高い天井が特徴的な教室に、終わりのチャイムが鳴り響いた。


 入学式という人生の節目を終え、初日のレクリエーション活動も無事に終了。いわゆる午前授業で解散となった教室には、張り詰めていた空気が緩み、安堵の混じった賑やかさが戻っていた。


「……あー、緊張した! 腹減ったな」

「ねえ、これから一緒に中庭のテラスで飯でも食いに行かない?」

「明日からもよろしくね。一緒に頑張ろう」


 身支度を整える生徒たちの表情は、どれも期待に満ちた新入生らしいものだった。


 しかし、教師と入れ替わりで一人の生徒が教室に足を踏み入れた瞬間、その喧騒は雪解けの水を凍らせるような静寂へと変わった。


 胸元のバッジを確認するまでもなかった。洗練された所作、鍛え上げられた細身の高身長、そして眼鏡の奥に宿る怜悧な光。一目で彼が上級生であることは明白だ。


「……二年のグティエレス・エルナンデスだ」


 低く、けれど教室の隅々まで響く声。


 生徒たちは息を呑んだ。


 あの「冷酷王子」の懐刀ふところがたなであり、一介の世話係から筆頭側近へと上り詰めた、グティエレス・エルナンデス。


 グティの鋭い視線が、教室の一点に定まる。


「マリーゴールド。殿下がお呼びだ。今すぐに生徒会長室に向かえ」


 教室内が騒然とした。呼び出し。それも「冷酷王子」として畏怖される、第一王子クリスティアンの元へ。


「承知しました」


 椅子を引く音と共に、黒髪の小柄な少女が立ち上がる。よく通る、堂々とした声。


 マリーゴールドは表情を一切変えることなく、グティの後ろへと続いた。


 退室する二人の背中に、クラスメイトたちのひそひそ話が降り注ぐ。


「……あいつ、死んだわ。冷酷王子に目を付けられるなんて」

「違うよ、多分お褒めの言葉を頂くんじゃない?」

「ああそうか、入学式で貧血で倒れた子を助けてあげてた件か」


 廊下に出ると、グティは一切振り返ることなく、機敏な動きで歩を進める。


(こうなることは、ある程度予想していた。驚きはしない……)


 学院一の有名人。不正を許さず、親族にすら一切の容赦なく淡々と粛清を完遂した「青い宝石」の意志を持つ王子。


(果たして、クリスティアン王子は本当に美沙ちゃんなのか。それとも、ただ雰囲気が似ているだけの別人か……)


 冷酷王子。


 その二つ名は、五郎の知っているあの子とは、あまりにも似つかわしくなかった。


 社会人になったはいいものの、組織の理不尽に馴染めず、たった三ヶ月で退社してニートになってしまった、隣に住むオタク気質の女の子。


「五郎さん、大変です……! 今度の連休、九州の博物館で本物が展示されるんですよ!そう、『とうらぶ』で私が一番推してる、あの名刀の本体です! 是非一緒に付いてきて欲しいんです!」


 好きなものの話になると少し恥ずかしそうに、けれど熱っぽく語っていた彼女の顔。


(……もし中身が本当に美沙ちゃんだとしたら、苦しんでいるだろうな)


 王子の正体を確かめるべく、マリーゴールドは静まり返った廊下を歩いた。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。


評価を頂ければさらに喜びます。


☆5なら踊ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ