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4話

 



 ザックは待ってましたと言わんばかりに目を輝かせ、声を潜めた。


「クリスティアン王子だったら得意項目だ。知ってるとは思うけど、一番有名なのは『バルガス伯爵断罪事件』だな」


 ザックは一度唾を呑み込んでから、話し始めた。


「バルガス伯爵。王家の親戚であり、殿下の教育係でもあった男だ。その地位は盤石だった。殿下が初めて街道整備の仕事を任された時、誰もが『どうせ伯爵が適当に書類を作って、殿下はサインするだけの操り人形になる』と思ってたんだ。だが――殿下は、そうはしなかった」


 マリーゴールドは、自分がいつの間にかザックの話に引き込まれていることに気が付いた。


「仕事を任されて、たったの数日で、伯爵が十年以上隠し続けてきた不正の尻尾を掴んだんだ。帳簿のほんの僅かな数字のズレからな。そして粛々と証拠を固め、監査局を動かし、逃げ場を完全に塞いだ上で断罪したのさ」


 五郎は黙って聞いている。

 このザックという男、情報屋として優秀なのかもしれない。


「伯爵は、あらゆる伝手を使って処分を取り消そうと奮闘したらしい。だが、殿下はそれらを一瞥もしなかった。感情など欠片もない、青い宝石のような意志で、すべてを無視されたんだ」


 ザックが、声を一段と低くする。


「結果、伯爵は複数の利権を失い、巨額の罰金刑も科された。政治家としては終わったと判断するに十分な処罰だ。影響はそれだけじゃない。貴族界隈が震え上がってるみたいだぜ。次は自分が処されるんじゃないかってな。あの日以来、クリスティアン殿下の名は『冷酷』の代名詞になったのさ」


 マリーゴールドは、内心で困惑していた。自分の知っている「美沙ちゃん」の行動とは、とても思えない。


 かつての彼女は、コンビニの前でたむろしているヤンキー集団を見かけただけで、かなりの遠回りをして、翌日に筋肉痛になって嘆いていた。


 それなのに今は、親族を処罰する?


「……冷たくて酷いだろ? もちろん悪いのは、不正をしていたバルガス伯爵だ。それは間違いないんだけどな」


 ザックの言葉に、五郎は小さく頷いた。


「実は、これにはもうひとつの説があるんだ」


「説?」


「ああ。『実は不正をしていたのは王子本人で、それに気づいたバルガス伯爵が口封じに嵌められた』……って内容さ」


「……お前は、それをどう見ている」


「嘘に決まってるだろ」


 ザックは、あっさりと断言した。


「裏取りは済ませてある。しこたま酔っぱらった関係者から話を聞いたんだよ。あの街道整備の不正は、十数年前から常態化していた。当時、殿下は三歳か四歳だ。その歳から帳簿を偽造して裏金を作るなんて、考えられるか?」


「あり得ないな。誰が、何の目的で、そんな陳腐な嘘を巻き散らしているのか」


「そこなんだよ! これは俺の個人的な想像だが、バルガス伯爵は、まだ諦めちゃいないんだ。奴は再び権力の座を取り返そうと、虎視眈々と狙ってる」


「そのために、クリスティアン王子の失脚を願っているわけか」


「想像だけどな。だけど、もしかしたら……学園内にも、奴らの手の者がいるかもしれないぜ」


 ――だとすれば、美沙ちゃんが危ない。


 マリーゴールドの心臓が、少し高鳴る。


「それはそれとして……」


「ん?」


「情報屋としての腕は、一流らしいな」


「嬉しいこと言ってくれるじゃないか! 殿下は良くも悪くも、今この国で最も注目されている人物だ。だからこそ、本気で調べてるのさ」


 ザックは誇らしげに胸を張った。






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