10話
「あ、そうでした。……実は、これを見てほしいんです」
美沙は、生徒会長の重厚な執務机の引き出しから、一通の紙を取り出した。
「殺害予告です。知らない間に、この引き出しの中に入っていました」
「ほう……」
「この部屋の鍵は私が持っていますし、授業などで長時間不在にするときには、戸締まりを欠かしたことはありません」
「それなのに、誰かが侵入して、これを置いていった、と……」
「私、恐ろしくて……。この部屋も、もう安全じゃない気がして」
美沙は、自分の大きな体を守るように、両腕を抱いた。
「そりゃあ怖いよな。ボディガードとかはいないのか?」
「そこなんですよ、問題は。犯人は恐らく、バルガス伯爵の関係者だと思います」
美沙の言葉に、五郎は短く頷いた。
「そうだろうな。世間ではバルガス伯爵はもう貴族としては終わりだと言われているらしいからな」
「私が言えば、護衛を付けてもらうことは可能です。……けれど、問題があります」
心を整理するように一旦間を置いた。
「バルガス伯爵は顔が広いので、至る所に伝手があるんです。私に新しく付けられる護衛が、彼の息が掛かっていないとは言い切れない。もし、守ってくれるはずの護衛に、背中から刺されたら……」
「なるほど。そうなると余計に危険だな。むしろ、内部にスパイを送り込むために、あえて不安を煽るような脅迫文を出したのかもしれない」
五郎は、冷静に敵の狙いを読み解く。
「けれど、ここまで案内してくれたグティだっけ。彼は大丈夫そうに見えたけどな。かなり忠誠心が高そうだったぞ」
美沙は、深く頷いた。
「グティは大丈夫だと、私も確信しています。バルガス伯爵の不正を暴く際、彼も協力してくれましたから。専門用語が多すぎて泣きそうだった私を助けるために、膨大な資料の検索を全部やってくれたんです」
「それなら、あいつは信じて良さそうだな。……ただ、一人では限界がある」
「そうなんです。……なので五郎さん。私のこと、守ってくれませんか?」
五郎はしばらく沈黙し、少し申し訳なさそうに口を開いた。
「協力したいのは山々だが……あまり、授業をおろそかにすることはできないんだ」
「それは……?」
「学院をちゃんと卒業するって、親と約束してるんだよ。……平民に対して、この学院の査定は厳しい。ちゃんと出席して、課題をこなしてなきゃ、あっという間に退学だ。だから、四六時中お前の側にいてやることは難しい」
五郎の言葉に、美沙はハッとした顔をした。
「……あ。そう、ですよね。五郎さんには五郎さんの人生が、事情がありますよね。ごめんなさい、私ったら自分のことばっかりで……。これだって、ただの脅しに過ぎないかもしれないですし……」
美沙は無理に笑顔を作ろうとしたが、その表情は、今にも泣き出しそうなほど強張っていた。
それを見た五郎が、苦笑いしながら美沙の肘をぽんと叩いた。
「落ち込むのは、まだ早いぞ。対応に心当たりはあるんだ」
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