表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/14

1話

 



 青空から、朝の太陽が苛烈なほどに煌めいている。


 緻密な彫刻が施された円柱と、ドーム型の屋根のお城のような建造物。ここはミラノイタリー国で最高権威を誇る教育機関の施設である。


 現在ここでは、王立パルマ学院の入学式が開催されていた。館内には、一様に気品ある顔立ちをした新入生たちが居並んでいる。


 ステンドグラスから差し込む光に横顔を照らされている、ひとりの女子生徒がいる。


 小柄な体躯、濡れたような漆黒のボブカット。彼女が他の生徒とは異なる簡素な制服を纏っているのは、平民の出自ながら卓越した能力を認められた「特待生」である証だ。


 彼女には二つの名前がある。

 現在の名は、マリーゴールド。

 かつての名は、芦屋五郎。


 彼は前世の記憶を保持したまま、異なる性別でこの異世界へと転生した。


 周囲の生徒たちが厳粛な儀式に身を硬くする中、五郎――マリーゴールドが意識を割いていたのは、自らの足元だった。


(……やはり、落ち着かない)


 二十年以上を男として過ごした彼にとって、スカートという衣服は、あまりにも慣れない。下半身を通り抜ける不自然な風通しの良さ。湧き上がる羞恥心。壇上の祝辞など些末な雑音に過ぎない。


(ズボンが、ズボンが欲しい………)


 その時。会場の空気が一変した。


「――生徒会長挨拶」


 司会の声が響き、階段を上る規則正しい足音が静寂を打つ。


「見て、クリスティアン殿下……」


「冷酷王子よ……」


「神々しいわ………」


 さざめくような私語と共に、一人の少年が登壇した。


 流れるような長い青髪。高身長。彫刻のような美貌に宿る鋭い三白眼は、まるで不純物を排する冷たい刃のようだ。


 ステージの中央に立った王子が新入生を一瞥すると、ざわめきは瞬時に氷結し、重苦しい静寂が支配した。


(まさか……)


 ひと目見た瞬間に、マリーゴールド(五郎)は彼から目を離すことが出来なくなった。過去の記憶が去来して彼の脳を埋め尽くした。


 視界の隅で動きがあった。


 数列前に座っていた赤髪の少女が、糸が切れたように椅子から崩れ落ちたのだ。周囲が当惑し、誰もが硬直する中でひとりだけが最短距離を動いた。


 マリーゴールドの小さな体は、倒れ込む少女の背中を、地面に触れる寸前で静かに受け止める。


「……大丈夫だ」


 少女の顔は青白く、呼吸は浅い。典型的な脳貧血の症状だ。

 マリーゴールドは少女の頭を低く保ち、服の襟元を緩める。会場のすべての視線が、ふたりの少女へと集まった。


「貧血だと思います」


 マリーゴールドの淡々とした声が、周囲の混乱を沈静化させる。やがて、ようやく動き出した教師たちが、倒れた少女を保健室へと連れて行った。


 ふと、視線を感じ、壇上を仰ぎ見た。


 そこには、先ほどまでの威厳と冷たさに満ち溢れた表情とは打って変わり、口を真ん丸に開けたクリスティアン王子の姿があった。


 その目が、マリーゴールドだけを見つめていた。


(美沙ちゃん)


 とりあえず今は――。


 マリーゴールドは視線を外し、自分の椅子へと戻った。


 式は何事もなかったかのように進んでいく。しかし今この瞬間、クリスティアン王子とマリーゴールドは、確かにお互いを認識したのだった。






最後まで読んでいただきありがとうございました。


「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。


評価を頂ければさらに喜びます。


☆5なら踊ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ