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【第20話 増える音、減る音】

――2020年6月


あの日以来、朝、家を出る前にマスクを着ける。

気付けば習慣に変わっていた――。


鏡に映る自分の顔は、半分しか見えない。

目元のメイクさえすれば外に出られる。

むしろ隠れることで、

より可愛く見える自分が――少し怖くなる。


「ほちざきーっ」


背後から、軽い声が飛んでくる。

振り返ると、よく同じ実習に当たる子が手を振っていた。


「ほちざきって今日、実習どっち?」

この子は“ユキ”初日の実習で隣だった。


「……ウィッグぅ。」

だるかったので、気だるく答える。


「あー、だるいやつなーーっ」


こういう所が気が合うというか、

似てるって言うか――。


「なー、まじ分かんないっつーか気まずい。ゆきは?」


「――あたしもウィッグっ」

溜めてから、両手の人差し指で私を指す。


「一緒かよ…あはは。」

思ったよりも声が出た。

この動きも含めて可笑しくて…

私は今、ちゃんと楽しいと思えている。


他愛もない会話。

名前を呼ばれたのに、呼ばれていないような感覚。


廊下を並んで歩きながら、

誰かと一緒にいるという事実だけが、音もなく増えていく。


「ほちざきってさ、メイクうまいよね、

マスクある方が映えるタイプじゃない?」


笑われているのか、褒められているのか、わからない。

でも否定するほどの理由もない。


「いや、それは全人類そうだから…マジで。」

私は曖昧に笑って返した。


友達とはまだ言えない、

でも、私がここで呼ばれる名前も悪くない…、かな。


――そして、授業が始まる。


学校は再開した。形式上はね…。


でも実際は…交代制で半分ずつ。

間隔を空けて。

実習時間は短くて、待ち時間だけが妙に長くて退屈。


実習室に入ると、シャンプーの香りじゃなくて、

アルコールの鼻につく匂いが先に立つ。


ウィッグを机に固定して、手を動かす。

動画で見た通りの角度で同じ手順で…。

なのに、仕上がりが合っているのかもわからない。


「……これで、いいのかなぁ…。」


答える人はいない。

先生も、ほかの生徒も、距離の向こう側にいる。


人に触れる仕事に就くはずなのに、人が遠い――。


放課後は、そのまま仕事に向かう生活。

週末も、ほとんど休みはなく出てる。


収入が必要だったし、断れる立場でもないし…。

職場はエマさんのお陰で、こんな世界でも明るい部分が出来ていた。


――この忙しさが、今の私を救っている気がする。


夜、アパートに戻ると、部屋は静かだった。

電気はついているけど、美織はいなかった。


テーブルの上に置かれたメモ。

「明日は合説。先に寝るね。ごめんよぉー…。」


スマホを見ると、文字の会話はある。

でも、お互いの“音”は減っていた。


「今日はどんな日だった?」

そんな一言を打って、しばらく眺めてから、消す。


家の中にある何となく重い気配は、

まだ言葉には出てこないけど、そこにはいる。


荷物を置いて、白いテーブルの前に腰を下ろす。

ふと、壁を眺めると、二人の思い出の写真。

ほんのり香る美織がここに居た気配。


先生の言葉を思い出す。

「今年は特別だけど、プロになる道は変わらない――。」

スマホの画面をなぞる指は消毒で少し荒れていた。


あの先生の言葉は正しい。

正しさ故に、逃げ場すら与えられていない。


部屋の時計が、静かに進んでいく。

同じ部屋にいない時間が、増えている。


“今は一緒に居ていいって、事だよね。”


あの時、そう言ったのは自分なのに――。

専門学校行ってないので風景調べるの大変でした(⩌⩊⩌)

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